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ゆめ か うつつ か
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寺山修司の「馬染かつら」を読んでいたら、競馬場にいる謎の老紳士の話
…いつもセルロイドでできた人形の孫娘を抱いており、誰もその子細を知らない…
と いうエピソードが出て来て、ゆくりなくも数年前中国で国内線の飛行機に乗った折の出来事が甦ってきた。



その時私はゼミの先輩たちと一緒に教授の研究旅行について行き、二週間のフィールドワークを終えて帰路に着くところだった。搭乗チケット確認の列に並ぶ私の斜め前に、中国人の若夫婦…身なりも悪くない、真っ赤なスーツケースに派手なシャツを着ているところを見るとバカンスの帰りだろうか、が仲睦まじくよりそっていた。時折女性が腕に抱いた赤ん坊に囁きかけているのも微笑ましい。

突然、私の隣りに居た教授がはっとしたように呟いた。
「あれ、人形だ」
言われて気付いたが、女性が抱いているのは精巧な赤ん坊人形だったのだ。やけにおとなしい赤ん坊だと思っていたが、まさか人形だとは気付かなかった私は、驚いて夫婦の会話に耳をすませた。夫婦は優しげに腕の中の人形に話しかけ、頬を撫で、慈しんでいる。唖然としているのは私たちだけではなく、よく見ると周囲の人々はみな遠巻きに好奇の視線で夫婦と人形を見守っているのだった。 

機内での彼らの席は、お誂え向きに私たちから通路を隔てた斜め向かいであった。依然として人形を相手に、食事をさせる真似すらしている彼らに私は首を傾げた。
「どういうことでしょうか?二人は芸人で、腹話術の練習をしてるとか?」
呟く私に教授は独自の仮説を唱え始めた。
「奥さんが赤ん坊を亡くして、精神をおかしくしたので旦那さんが人形を与えたら本物と思いこんでるとか…」
私たちの憶測は続いたが、それらはいずれも憶測の域を脱出しなかった。
飛行機が大連に到着しても、夫婦は変らず人形の赤ん坊を慈しんでいる。私は我慢できなくなり、教授に言った。 

「尋いてみましょう」
「真実を知った奥さんが発狂したりして」 

教授はおどけて首を振る。私は意を決し、小走りに通路を歩くと先を行く夫婦に話しかけた。なるべくにこやかに、挨拶をするような仕草で…腕の中の赤ん坊を覗きこみながら。 

「とてもかわいいお子さんですね!」

瞬間、女性は目を見開き、顔を歪めた。教授は正しかったのだろうか、私は尋ねてはいけないことを尋ね、女性の狂気を呼び覚ましてしまったのだろうか。そう危ぶむ私に彼女は言った。怪訝そうな表情で。

「これ、旅先で買ったお土産の人形なんですけど」

…かくして謎は彼女たちではなく「私たち」に在った、と判明した……



とか、しかつめらしく書いてるけど、ほんと言うと大笑いだった。しかしまァつくづく人は「意味を求め物語を作る」、それを欲する、そういう存在なのだということを感じたね。

寺山が語った老人の人形も実は全く何の謎もないかもしれないな。どうだろう。
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