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いわゆる昨今の浴衣の流行について、ゴスロリ浴衣やミニスカ浴衣など・変形浴衣の出現は、衣服の移り変わりとして認められるのではないかということに、ひとまずは意見の一致を見た。
(Mは容認していたが、私は個人的にミニスカ浴衣は好まない。しかし十二単衣が現代の着物に変化していったことを考えればこういった浴衣の「進化」はやむをえないだろう)
次いで話題は昨今の着物の着方になった、着方が変化していることについて…もっと言えば「既婚・三十過ぎてのお振り袖」式①の常識を覆す着こなしについて、私とMの意見はまっぷたつに分かれた。
簡単に言えば私は「あり」、Mは「なし」。
私はこれも衣服の変遷の一過程ではないかと主張したが、彼女は
「浴衣は最初から着崩されたものだろ?浴衣で結婚パーティーは行かねえだろ?着物は公式の服、いわばハレの衣装なんだよ。膝に穴開いてるジーンズ、いくら
カッコよくてもそれで結婚式出れねえのと同じ。着物はまともに着るべき服なんだ」
なるほど、そういえばMは表だか裏の免状を有し、着物の着付けを一人でこなせるヤマトナデシコだった、だがそのためにこそ普段着物を着付けていない人間の感覚がわからないのではないかと私は思った。
「それだよ!着物はハレ、浴衣はケ(日常)っていう感覚、あたしにはないもん。浴衣ですら子供のとき以来着てないし、ましてちゃんとしたお着物なんか今までの生涯で三時間くらいしかまともに着てない。あたしにとっては着物はもちろんハレだけど浴衣もハレなんだ、非日常なの。多分一般的な女の子はみんなそう、普段は着ない、祭りのときだけってイメージ。浴衣ファッション雑誌なんてのがわざわざ出て、アクセやら小物特集なんかがある②のもそのためでしょーが」
要するに浴衣も着物も「特別な日の服」、と訴える私に、Mは一理あるか、と考えこんだ。論の筋は通ったものの、私は自分の徹底した現代人ぶりがいささか情けなかった。
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いずれにせよ今時の女の子は、女の子でいられる時間が長くなってるよね。と、
姉(既婚)が薄紫の浴衣に青い帯、真っ赤な薔薇の帯締め③を合わせてるのを見て思った。
(①振り袖は未婚の若い女性のものとされる②浴衣にアクセサリーはしないのが普通③浴衣に帯締めはしないのが普通 ←今までの常識)
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まあ・あたしは見識も節操もセンスすら無いので・「好ましいならOK」。
それでいい。
両親は二度目のハネムーンに旅立ってしまったのでおとーととふたりで家を占拠して好き勝手にやっている、大量に好きなお菓子を買い込み宇治金時を食べに車をはしらせテレビニュースにツッコミを入れ親にはいえない話をながながと居間で語り合いなどしている、十五年位前は毎晩その日にあったことを報告しあってから眠っていたけどその頃に戻ったかんじ。不思議。
隣りの畑には出稼ぎの中国人が来ていて、久々に中国語を話した。まだ通じる、と確かめながらの会話はわりと苦痛だった。
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有用なことは何一つしてやらない、と言ったのは足穂だったか、今の自分がまさにそれだと思いながらラテン語入門なぞ繰っている。
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金と魂を引き換えることと、金と身体を引き換えることはどちらが崇高か?すべての娼婦は聖母である。
要するに、私たちは進退極まっていた。
「さて、どうするね?」
隻腕のキャプテンが呟いた、海賊上がりの彼は、勇気と智謀に満ち、諦めを知らず、常に正しい判断を見誤らないという驚嘆すべき人物であり我々の旗印だったが、その時ばかりはいささか落胆を隠し切れない口調だった。その場には銀髪の航海長…あらゆる経験からいかなる困難をも捌ききる度量を有している老人、双子のようにうりふたつの顔をした水夫たち…彼らはまた恐ろしく巧みに風を読んだ、中国人の料理女…彼女の創意溢れる料理法は毎日同じ食材を使っても飽きさせなかった、金髪の歌姫…彼女の芸術はしばしば我々を慰めた…などが揃っていたが、何の解決法も出なかった。
私は沈黙に耐え兼ねて
「空を飛ぶしかないでしょうね」
とおどけたが、まさかそのふざけた提案が採用されるとは思ってもみなかった。
かくして明くる日から海鳥の捕獲競争が始まった、一番多く捕らえた者には都に誰よりも早く足を踏み入れる権利が与えられると聞いて我々は張り切った、それは、いつの間にか海の直中でなす術もなく漂っているところを拾われた、何のとりえもない私をも奮起させた。
この辺りの鳥は人を警戒する習慣になかったので、いともたやすく捕獲することができた。鳥寄せのための数々の細工の中でも一等素晴らしかったのは、歌姫のアリアだった。彼女は巧みに鳥の声色を真似、求愛の歌で鳥を惹き寄せるので、上陸の優先権は彼女に譲られることとなった。
数えて五千羽を超える鳥を虜にした頃、船はすでに海面から離れ空中に浮かぶようになっていた。慎重を期したキャプテンは更に五千羽の鳥を追加し、船は軽々と空の高みを走るようになった。
一万羽の鳥に曳かれ空を往く船はこの世ならぬ光景だったに違いない。光輝く中央の都で私たちはかつてない歓待を受け、この独創的な入港を思いついた私は都から勲章を授けられ、「有翼の人」として以後都が滅ぶまで永遠に栄誉市民の称号を与えられた。気がつけばこの世界に身の置き所もなく漂っていた私の、これこそが最初で最後の 存在の証 であった。
「どこかには辿り着きたい」というのが拾われた当初からの私の口癖であり、キャプテン以下船の乗組員たちは私が都にとどまることを信じて疑わなかった。それは他ならぬ私自身の決意でもあったので、船が翼のことごとくを解放し、ようやくもたらされた雨期に乗じて旅立つ間際になって、再び船に乗ることを希望したのは我ながら正気の沙汰ではないと思った。しかしキャプテンは動じなかった。
「では君に、何か役目を与えよう」
葉巻をくゆらせながら彼は言った。
「絶えず新世界を夢み、そこに向かう意思を持ち続ける羅針盤守りはどうかね?」
私に異存はなかった。思えば「どこかには辿り着きたい」という願いそのものが私のすべてであるからには、辿り着いてしまってはいけないのだ、それは死を意味するのだ、さまようことが私の使命であると悟ったからには。
今や船は帆を掲げ河を下りはじめている。私が居る限りこの船は沈むことはないだろう。
未来は洋々として定まらぬ海のように深く 青い。