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ゆめ か うつつ か
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なだらかな丘が何処までも続いていた。

かすかなモーター音が空から聞こえてくる、見上げると無人のスキーリフトが運行している、誰も居ないのに廻り続けているそれを追い、無心に丘を駈けた。

突然、柔らかな草が茂る初夏の高原の急斜面で足を滑らした私は腕をばたつかせた、鳥じゃあるまいしそれで空が飛べると思ったわけではない、ただなんとかして体のバランスを保とうとしたのだ―しかし、次の瞬間、私の体は宙に浮いていた!

それはけして高く、また美しい飛翔ではなく、わたしはおぼれかけた人のように空気を掻いてようやく浮き上がっているという風情だった、ふわり ふわり…1・2メートルも浮いた後、疲れのためにもがくのをやめた私は途端に地に堕ちた。

飛ぶというのは思ったよりも簡単だが、また思ったよりも疲れるものだと思った。





浮いた感触も土のやわらかさもありありと覚えている。
それにしても、せいぜい頑張って1・2メートルの高度、ってとこがリアルだよね。どうせなら鳥の視点を持ちたかったな、夢なのにけちくさい飛び方をしたものだ。

この後アステカの古代神殿ばりのマヨヒガに迷い込んでしばらくうろつくんだけど、そこには人々が普通に暮らしを営んでいる、彼らは実に楽しそうに日々の仕事を片付けていて、あたしの存在には気づこうとしない。
あれおかしいな、マヨヒガといえば無人が相場なんだけど…って思いながら煮炊き女もかまびすしい台所にぼんやりたたずんでいると、まだ少女と言えるほどの女の子があたしを見て小さく叫んだ。

それで、あたしは、ああ、ちがう、ここがマヨヒガなんじゃない、

あたしがザシキワラシなんだ、

っていうことに気づいたのだった。


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ぽたぽた 緑に落ちる朱紅。

まつたにみよこの「つつじの娘」って長野だったよなぁ。あの挿絵通りにね、山が真っ赤になるんだ。燃えるみたいに。

探偵小説だとツツジってよく色盲との関わりで出て来る、赤緑色盲は緑色に赤が混ざると識別できなくなるから、ツツジの花ざかりがただ一面の緑にしか見えないんだって。

満開のいちめんの花って狂気だな。




  

哲学・宗教系専門の古本屋に行って、前から欲しかった本を少しずつ買ってる。前来た時は参考文献のためだったので本を見るのが辛いほどだったけど今度は思い切り趣味の本なのでもうもう楽しいったら。『カニバリズムの秩序』、『秘密結社とホモセクシャル』、フーコー、ドゥルーズの解釈本をいくつか。全部既読でいつか入手すると誓ってたもの、しめて五千円也。ドルーズのミルプラトーあったら欲しかったなー。アンチオイデプスばっか五冊くらいあった、なんでだ…。あと久生十蘭全集が組で六千円してすごい迷った、解題が中野美代子さんとか中井英夫さんとかとにかく豪華で…欲しいようー
フォン・シュタインや、あとボルヘスの作品に『記憶の人フネス』っていう、一度見たこと・読んだことはけして忘れないという人物が居たけどそういう特殊能力が心底羨ましい。頭の中の本棚に読んだ本を全て詰め込んでおけたらなー。

あたしの貧弱な脳みそじゃ、読んで、傾向を把握して、系統ごとにタイトルと作者を陳列するくらいが限界。しかも「解読不能」図書もいっぱいあるときたもんだ。





『馬をめぐるアンソロジー』
「ケンタウルスの探求」 プリーモ・レーヴィ 
ケンタウルスと共に育った男の証言、面白いし出だしが秀逸。
→「父は彼をどこに入れてよいかわからないので馬小屋に置いていた」
口が小さいのに馬の体を養わねばならないので一日中咀嚼している、なんて習性とかね、やけにリアルで笑った。ラストも切ないが、文体がさっぱりしてて訳者うまいとおもった。

「冷し馬」 井上ひさし
馬娘婚姻譚ね。遠野物語下敷きに老人が語る、人間の娘アオエと馬のシロの心中話。ええ話しや・・・

『夢見る人の物語』 ロード・ダンセイニ
基本、異世界、都市を中心とした幻想譚。前々からいろんなとこで名前は見てたんだけど未読だった、足穂に影響を与えたって納得!神話みたいだなーと思った。ちょっとラヴクラフトっぽくもある。
人となることを夢見た沼の妖精の、「妖精族の娘」なんかは、美しいものを理解しそれを望む魂をもっていてもそれが手に入らないなら沼のほとりにいたほうがまし、と、魂を持たぬひとを探す、もう少し掘り下げても面白そうだなと思ったな。
都に入ることを希望する誰もが無益な話をしなければならない「無為の都」に出てくるウウイニって日本のことに違いないのだけど(富士山も出てくるし)、こんなとこにまでジャポニズムが・と感慨深かった。あと「椿姫の運命」、短いけど、天使に地獄へ落とされること無く地上で花を咲かせる彼女の魂に、なぜか少し安堵した。

『奇術探偵 曾我佳城』 泡坂妻夫
曾我佳城の探偵譚全話。ん おもしれえ!美貌の女魔術師、佳城さんがとにかくステキ。中学生の匡一くんをお弟子に、あちこちの事件を快刀乱麻。それだけにラストの衝撃たるや…しかもラストの話だけ犯人があっさりわかった。他はけっこう外したのに。匡一くんがまた、一人前になってて泣けるんだ。
難を言えば語り手が常に第三者なので佳城さんの内的魅力がちょっとわかりづらい、なんていうか、うちとけないというか…そういうのが好きな人もいるのかな。
奇術の話が兎に角勉強になる。江戸期の奇術種本とか。

第一話の「天上のとらんぷ」、天上にとらんぷをはりつける術はでも、実地で見ないとどうもわかりにくい…あとこれが佳城さん初登場なんだけど、けっこう地味というかいきなり横から現れて推理して、って感じ;
「空中朝顔」はキレイなお話、悲恋物語だし・あさがおづくりの花師っていいなあ・・・とらんぷの数字・記号で短歌を作る「とらんぷの歌」もしゃれててかっこいいし、「ミダス王の奇跡」銀のコインを金に変える奇術、奇しいし妖しい。温泉が舞台だったしなんとなくネタはわかったけど、まさかこの話がラストに繋がるとは…初読じゃまったくわからなかった。「魔術城落成」はだからわりとショック…いやほんと…

*内ダ康ヲ
・『後鳥羽伝説殺人事件』
浅見光彦シリーズの第一巻目。このあとの作品を読んでみたくて、それには一応この探偵の出自というか登場を見ておかねばと思って読んだ。
きっつい母ちゃんにエリート兄ちゃん、ルポライターで家がかり。柔和で穏やか。正直言ってこういう人物はあまり好みではないし探偵自身への愛着はまだ湧いていないけど、冒頭の女が本を買う部分から、探偵の妹が殺されて…という伏線、ヒラの刑事と上司の確執、なんかのストーリーは読ませるんじゃないかな。
ただ、これは確信犯的な書き込み方かもしれないけど、文中の表現やつながりなんかから途中であっさり犯人が判明した。読者に当てさせようとしてくれてるのかな、親切だなあ。
でも…刑事局長の兄の権威でコトを運ぶやり方はどーよ…って思わないでもない…後鳥羽伝説についてはいたく勉強になった。歴史好きなのでこういうのはとっつきやすい。

・『平家伝説殺人事件』
ストーリーは起伏があってなかなか読めた。伊勢湾台風と冒頭の二人の少年の記述から銀座のホステス、偽造結婚にフェリー転落、自殺。平家の落人村。稲田佐和がヒロインとして人気高いのは納得。浅見光彦とも性格が合いそうだ。テンポがよいのでさっとよめる、でも落人伝説はあんまり関係ない。
 
・『江田島殺人事件』
東郷元帥の短剣が盗まれ、兄を通して防衛庁から依頼。海自の人間をホームズばりの慧眼で見抜く光彦、いやそれはわりと鋭い人ならわかりそうなものだ…と思わないでもなかった。江田島や海軍の話、軍神なんかについて勉強になるなー。あとは陽一郎兄さんの人間的なやさしさ・弱さにしびれた。光彦はなんかのーてんきそうで人間の背負う暗さがないのでどうも共感できない。人形みたい。裏に潜む戦争・軍備の問題なんかは、あれこういうこと書くんだこの作者・・・と思った。
それだけにあのラストはなかなか…うん、いいんじゃねえの
 

美術館取材の運転兼写真助手として、八王子のM美術館へ行ってきた。取材はタダで見せてもらえるから好き。M美術館は家具屋の最上階に作られてて、ミレーの収蔵では国内一らしいけど、あんまり有名じゃないんだよね。おかげでものすごくゆっくり観れてよかった。
楽しみにしてたクールベの「波」が貸し出し中で残念だったけど、ディアズ特集は見ごたえがあった。神話画はゴージャスで見ごたえあるよね。ギリシア神話大好きなので楽しめたー。あと個人的に、象徴派のエネルの絵が気になった、あの暗闇に浮き上がる白い裸体がなんともいえずなまめかしー。
家具屋さんの美術館なので、館内には絵にあわせたソファやテーブルが置いてあって、そのコーディネートも楽しい。普段は絶対座る機会無いだろな、ってかんじのアールヌーボー風のアンシンメトリーな寝椅子とか。

その後16号まで行ってお気に入りのカフェでお茶。



ちなみに自分を絵でイメージするならばモネよりはゴッホ、ローランサンよりはキスリング的だと自分では思っているしまあ妥当じゃない?と周囲にも言われる。

絵画については専門ではないし系統的な勉強したこと無いので、興味が思い切り「点」になってるんだけど、ヒエロニムス・ボッスとかルドン、エルンスト、モロー、フィニーなんかが好き。要するにとっても幻想絵画なやつ。
一番好きなのはルネ・マグリットだけどね、小学校の教科書でひとめぼれして、誕生日が一緒だと知ったときは狂喜した。高校のときベルギーの国立博物館で本物前にしたときは興奮のあまり震えたし。生きてる間に本物を目にすることは絶対無いと思ってたからなー。

あたしってほんと、人生に於いてやりたいことを、ほぼ叶えてきたと思うわ。贅沢…

つまりはエルドラド(黄金郷)やボナンザ(富鉱帯)のほうが私たちには身近ってことか。なんかやだな。そもそもユートピアってのは16世紀、大航海時代以降の産物だしね、重商主義→資本主義の萌芽、富の蓄積と消費のサイクルが成り立たない世界を私たちは天国と呼べるかどうか…

書いたのは相当前で、その時はもっと詳しい注記をしようと思ってたんだけど・根が尽きた。中国系の文献は見るだけで疲れる。


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