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ゆめ か うつつ か
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オレンジ色の街、海の見える坂をどこまでも車で駆け上がっていく。嵐の後のようなきれぎれの雲が流れる空、虹色に輝く海に魚が飛び跳ねている。

こんな絵を見たことがある、
あれはたしか「イカロスの墜落」だっけ?

イカロスが墜落したのは昇ることができたからだ、とわたしは思う。

坂の上に着くと風はなまぬるかった、これ以上のぼることもおちることもままならぬわたしはただそこに立ち尽くしていた。


(終わらないたそがれの夢)




右腋の下がごろごろしていた。触ってみるとくるみ大に腫れている、微かな痛痒。
気になって弄っているうちに、腋の下がずるりと裂けて 中から血にまみれたダイヤモンドが出てきた。なるほどこんなものが入っていたら違和感もあろう、それにしてもダイヤモンドは人体で生成されるものだったのか。
感心しながら石を眺めた、生まれたての石はきらきら眩しくいとおしかった。

流れ出る血を止めようともせずわたしは。


(あまく鉄さびた匂いの強烈な夢)




婚礼の宴が始まる。

にぎにぎしい花火の音、楽団の演奏に町は沸きかえっていた。
この地を治める領主の娘が隣国の王に嫁ぐらしい。城の祝賀会には身分の別なく参加できるとのことだったが、わたしはひとり 閑散とした町をぶらついていた。

乾いた石畳の上に、クリーム色のワンピースを着た少女がたたずんでいる。年のころは16、7歳、小柄で華奢な体に燃え立つような紅い髪。少女はわたしを見ると安心したように近寄り、声をかけてきた。

「ちょっと訊ねたいのだけど」
「何ですか」
「この町には何故人が居ないの?」
「みなあなたの婚礼の宴にいらしてるからです」

わたしの答えに少女は目を丸くし、それからいささか敵意を込めた瞳でこちらを見つめた。

「……それであなたはわたしを城まで連れ戻そうと?」
「いえ」

わたしは答えた。

「わたしは通りすがりの旅人ですから、王にも姫にもこの地にも興味はないのです」
「……それもなんとなく面白くないわね」

唇をとがらかせる、姫は幼くかわいらしかった。

「まあいいわ。あなた、少しばかりわたしのお供なさい」

そこで、わたし達は歩き出した。

「姫はなぜ城を抜け出されたのですか?」
「決まってるわ、お嫁になんか行きたくないからよ」
「それはそれは」
「あなたはどこから来たの?」
「遠いところからです」

実際わたしはどこからか何かのためにここにやってきたのだが、さてそれはどこからで何のためなのか全く覚えが無かった。

「行き場所も決めてないの?へえ」

姫は首をかしげた、そこにらっぱが鳴り響き、紙ふぶきが舞う。婚礼のパレードが始まるのだ。
狼狽する姫を横様に抱きかかえ走るわたしに、姫が、あまやかな声でささやいた。


    「わたしを連れて逃げてくれない?」


(胸がきゅうとしめつけられるようにいとおしい夢)

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