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ゆめ か うつつ か
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柔らかい雨が降っている。

雨の匂いの中、わたしは見知らぬ土地を歩いていた。
すぐそこに山が見え、閑静な郊外の散歩道といった風情。

誰も居ない。

舗装された道路の側溝からちろちろと水が染みだしていた。近づいて見てみると、溝には清い水と一緒に小銭が溢れている。
わたしは、こんなところに小銭があるのは、近くに神社があるからに違いないと考えた。そのとたん、草深いお社が出現する。むっとするほどの草いきれのなか、わたしは片手に小銭を掬い上げた。数えなくても手のひらに800円ほどあるとわかっていた。

その金を懐に、わたしはゆっくり坂を上った。賽銭泥棒をしたつもりはなく、自分のものを取り戻したように気分が良い。

と、不意にそこだけ黄昏色の、ほのあかるい存在感の店が目に入る。ガラス戸を押し開け中へ入ると、オレンジ色の内壁に天井から吊りさがったカラフルなモビールが揺れた。
レジ台には、本物の薔薇を加工した耳飾りのような、繊細な小間物が少しだけ並んでいる。そのほかに、商品のようなものは何も無かった。
長い黒髪の、年齢不詳の女主人が無表情にモビールを飾り付けしているのを眺めながら、わたしはまったく突然に「ついこの前、この店に来たばかりだ」ということを思い出した。


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