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ゆめ か うつつ か
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彼はあまりにも怯えていたので、わたしが彼を救いに来たのだということも理解できずに噛み付いたりむちゃくちゃに暴れたりした、わたしは彼の恐怖を感じ取り困惑よりもむしろ哀れみを覚えた、なので彼の攻撃に傷つきながらもうんうんとうなずきその体を抱きしめた。

こんなにちいさな子供を虐めるなんてひどい親も居るものだと思った、わたしは彼を自分の家に連れて行った。わたしは彼を護り、社会に……世界に導く役目を持っていた。

わたしたちはぎこちなく、しかし確実に、打ち解けていった。しばらくすると、彼は見違えるように穏やかになり、わたしの言うことを熱心にきくようになった。課題をひとつ終えるたびに、わたしは彼の頭を撫でてやる。すると彼は本当に幸福そうに微笑むのだ。

もうだいじょうぶだろうと彼を世間に送り出して二・三日したころ、わたしは庭の薔薇の手入れをしていた。ふいに薔薇の茂みが揺れ、草の陰から彼が現われた。腕に片目の子猫を抱いている。驚き、どうしたか問うと、うつむいて「ここがいい」とだけ言った。

彼は外界に馴染めず、誰の言うこともきかず、ついには再び逃げてきたのだった。
わたしは彼を救い、世界に導いてやるつもりだった、しかし世界は彼にとっては新たな監獄に過ぎず……ここだけが彼の生きられる場所なのだ、家でも社会でもない「何処でもない場所」、「避難所」が……

しかし果たしてそんな場所があることは幸福なのか?
一生避難所に篭もりきり 外界を遮断して生きることははたして幸福なのか??



不意に、片目の子猫がくちをきいた。

「結局ね、あんたは誰も救えないんだよ」



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