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それは小瓶に入った一滴のしずくであり、無限の暗黒であり、とめどない「破壊」を凝縮したものだった。私は誰とも知らぬ者からその処分を任された。あるいは悪魔だったのかもしれない、とにかく厄介な荷物だと思った、誰の目にも触れぬよう誰をも害さないよう、わたしはすこしずつそれを消滅させようと思った。
裏手にある女子修道院は中庭が迷路になっており、その一番奥に焼却炉があるのを私は知っていた、そこで全ての秘密、全ての悪徳が昼夜を問わず燃え盛っているのだった。ところで私の所有物である「破壊」はそのままではとうてい如何ともしがたかった、何しろそれに触れたものは全て破壊されてしまうのだから。考えたあげく、私はそれを反故紙や木々のきれっぱしや石などにふりかけ、そうして破壊されゆく紙や木々を燃やすことにした、それは果てしなく迂遠だったが一番手っ取り早かった。
ひそやかな作業は毎晩続いた、園丁と修道女の、詩人と修道女の、司教と修道女の、修道女と修道女の逢引を横目に、私は毎晩焼却炉に通ったがそれだけではとうてい追いつかなかった、私は誰にも咎められないのをいいことに調理場に入り込み、いくつものオーブン、いくつものかまどを開いては燃やし、火種をかきたて、たきつけた。
灰が雪のように降り積もったが私はそれに触れる気は起こらなかった、破壊の残滓などに触ったら、どうなることか分かったものではない。それでも小瓶の中身は減らない。私は絶望した。もうこれ以上どうすればいいのかわからなかった。私の懊悩はうすうす家族に、最愛の家族に!気づかれかけていたが、このことを打ち明けるわけにはいかなかった、「破壊」に押しつぶされるのは私だけでたくさんだ。
私は最後の手段に出ることにした。それはずいぶん前に思いついてはいたものの、実行する勇気が無いために今まで見て見ぬ振りをしてきていた案だった。
炎の爆ぜる音さえ闇に吸い込まれてしまうような新月の夜だった。迷路の奥で、私は小瓶を取り出し、その中身をひといきに呷ると、炎の中に飛び込んだ。
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エンデの「山の上の売春宮殿では、今夜・・・」に似ている。が、まだこちらのほうが救いがある気がする。
夢見絶好調なのだがしかし!生きながら焼かれるのは、もう、いやだ。