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ゆめ か うつつ か
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真夜中、家路についてやれやれと扉に手をかけたとたん、それまで無言で張り付いていた蝉がけたたましく叫びながら体当たりしてきて、心臓が口から飛び出そうなくらいびっくりした。不意打ちなんだもんな。

蝉時雨とはよく言うが、ほんとに蝉が時雨のようにばちばちと自分の体に当たってくるとは思わなんだ。



ところで漢詩や漢文を読んでいると、ときたま女性の美しさを讃える「蝉娟」という言葉が見られる。三國志にも貂蝉という有名な美女が出てくるとおり、この蝉という字には、もともと「美しい」という意味があるらしい。いったいに漢語では蛾眉、蜂腰など美女を虫にたとえる例があるが、しかし、蝉のように不恰好で土色にすすけた様態のどこが美しいのだろう、などと考え、道端に転がる蝉の死骸を見てなるほどと思った。種類にもよるのだろうが、あの、葉脈のように透き通った羽、硝子細工めいてあわれに美しい羽を賛美しているのなら、納得。

或いは短命の儚さを美女の儚さにたとえたか。



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