ゆめ か うつつ か
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生い茂った茅萱が塀のように道を囲むなかを、車で走っている。
行けども行けども単調な眺めに、上っているのか降りているのかよくわからなくなる。ゆるやかなカーヴをくるりと曲がると、途切れた茅の隙間から、ちらりと遠浅の海が見えた。透明な海の中に、半ば水没したような都市がきらめく。
眩しすぎる太陽を手のひらで遮るみたいにはっきりしない視界で、それでも捉えたその街は、真新しいビルディング、整えられた道路、真昼にも煌々ときらめくオフィス。今にもいきいきと働く人々が出てきそうな。
そう、なぜ人が、人間だけが居ないのだろう?
「そりゃ、あれは無人の街だからね」
助手席の連れが面倒くさそうに言った。
「高いところへ行けば行くほど遠いところが見えてくる。あの街は蜃気楼、遠い街、もうとっくの昔に滅びた、TOKIOという街の外観を映しているだけ」
街は淡く光りわたしを誘惑する、あの光の街をさ迷いたい、誰に会うこともない閉じた街、さながら神隠しに遭ったように無人の、海の中の幻の街を。
そう思いながらわたしは上る、街をよく見るために街から遠ざかる。
行けども行けども単調な眺めに、上っているのか降りているのかよくわからなくなる。ゆるやかなカーヴをくるりと曲がると、途切れた茅の隙間から、ちらりと遠浅の海が見えた。透明な海の中に、半ば水没したような都市がきらめく。
眩しすぎる太陽を手のひらで遮るみたいにはっきりしない視界で、それでも捉えたその街は、真新しいビルディング、整えられた道路、真昼にも煌々ときらめくオフィス。今にもいきいきと働く人々が出てきそうな。
そう、なぜ人が、人間だけが居ないのだろう?
「そりゃ、あれは無人の街だからね」
助手席の連れが面倒くさそうに言った。
「高いところへ行けば行くほど遠いところが見えてくる。あの街は蜃気楼、遠い街、もうとっくの昔に滅びた、TOKIOという街の外観を映しているだけ」
街は淡く光りわたしを誘惑する、あの光の街をさ迷いたい、誰に会うこともない閉じた街、さながら神隠しに遭ったように無人の、海の中の幻の街を。
そう思いながらわたしは上る、街をよく見るために街から遠ざかる。
銀いろの小雨が絶え間なく降り続いている。
わたしは灰色の塀に囲まれた狭い路地に居た。アスファルトに固く鎧われた道は濃く滲むばかりで、拒まれた水の流れが幾筋もの小川になり、やがて逆巻く奔流となる。くるぶしまで水に浸し流れを辿ってゆくうちに、いつしか濁流のなかにさまざまな生き物が見えてきた。ザリガニや鮒、蛙、沢蟹……足もとにちょこちょこと走り出ては消えていく。
目を上げるとそこは町はずれの駅だった。ホームには電車が待っており、わたしが乗ると待ちかねたように走り出した。車内は程よい混み具合で、車窓からはのどかな田園風景が見える。田畑には至るところ小川や用水路が通じており、ちょっとした水郷だ。雨は銀糸のように細くなり、けぶる空の彼方にうっすらと白い山が見える。
終点にはすぐ着いた。わたしは電車から降りなければならなかった。たくさんの人が無言でわたしを追いこし、ばらばらと散っていく。つられて駅を出ると、そこはさっき窓から見えた白い山の麓だった。山はいちめん南国風の白い巨大な石墓に覆われていた。
それでわたしは、先ほど周りに居た人々はみんな死んでいたのだ、と気付いた。
わたしは灰色の塀に囲まれた狭い路地に居た。アスファルトに固く鎧われた道は濃く滲むばかりで、拒まれた水の流れが幾筋もの小川になり、やがて逆巻く奔流となる。くるぶしまで水に浸し流れを辿ってゆくうちに、いつしか濁流のなかにさまざまな生き物が見えてきた。ザリガニや鮒、蛙、沢蟹……足もとにちょこちょこと走り出ては消えていく。
目を上げるとそこは町はずれの駅だった。ホームには電車が待っており、わたしが乗ると待ちかねたように走り出した。車内は程よい混み具合で、車窓からはのどかな田園風景が見える。田畑には至るところ小川や用水路が通じており、ちょっとした水郷だ。雨は銀糸のように細くなり、けぶる空の彼方にうっすらと白い山が見える。
終点にはすぐ着いた。わたしは電車から降りなければならなかった。たくさんの人が無言でわたしを追いこし、ばらばらと散っていく。つられて駅を出ると、そこはさっき窓から見えた白い山の麓だった。山はいちめん南国風の白い巨大な石墓に覆われていた。
それでわたしは、先ほど周りに居た人々はみんな死んでいたのだ、と気付いた。
さっきから、どさりどさりと間断なく何かが落ちている。それからさくさく、スナックを食べるよりまだ軽やかな音が続いて、またどさり。夢うつつのなか、ああ雪が落ちているなとわたしは思う。
立春過ぎての大雪は冬の置き土産か春の手土産か、いずれにしても真昼の光でいとも簡単に融けてしまう淡雪。明け方帰宅したときには硝子のようにはりつめていた薄氷も、いまは泥水と化しただろう。名残の雪は見苦しい。履き物をどうしよう。春泥とはよく言ったもので、この季節は雨季に次いで履き物に気が揉める。めぼしい往来が総アスファルトとなっている現代でもそうなのだから、昔の道はもっと大変だったはずだ。まして着物に下駄草履では。爪皮などという日本語も今は化石、わたしも実際使ったこともない……
とめどなく続く連想を、雪割の音が断ち切る。
起きて、支度をして、仕事に行かなければ。
立春過ぎての大雪は冬の置き土産か春の手土産か、いずれにしても真昼の光でいとも簡単に融けてしまう淡雪。明け方帰宅したときには硝子のようにはりつめていた薄氷も、いまは泥水と化しただろう。名残の雪は見苦しい。履き物をどうしよう。春泥とはよく言ったもので、この季節は雨季に次いで履き物に気が揉める。めぼしい往来が総アスファルトとなっている現代でもそうなのだから、昔の道はもっと大変だったはずだ。まして着物に下駄草履では。爪皮などという日本語も今は化石、わたしも実際使ったこともない……
とめどなく続く連想を、雪割の音が断ち切る。
起きて、支度をして、仕事に行かなければ。