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ゆめ か うつつ か
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焼きたてのチーズチョコパイを片手にわたしはタクシーに乗った。いつになく美味しく焼けたとろけるようなパイを、姉と姉のこどもたちに届けよう。灰色の車が、緑の並木道を滑るように走り出す。

橋を渡るとそこは閑静な住宅街で、わたしは首を傾げる。おかしいな、橋の向こうは駅になっていたはずだ。
そう思っていると、運転手も困惑したようにわたしを振り返った。「弱りました、こんなはずはないのですが。もしかしたら迷ってしまったかもしれません」

とにかく道を尋ねよう、と細い路地裏に車を停める。庭師が草を刈っていたのだ。旧いがよく手入れされた庭の、薔薇やジャスミンの香りにむせながら車を降りると、趣きのある家からはちょうど上品な老婦人が如雨露を片手に出てきたところだった。

「おやまあ、道に」。運転手の話を聞いた婦人は少し感慨深げに呟いた。「じゃ、とうとう、お客が来たのね」。そして片手でわたしをもさしまねいた、「では少しの間、わたしのお茶を飲んでいらっしゃい。地図を出してあげるから」。

妙なことになった。婦人の誘いを断りきれず家に上がると、年代物の茶器で、お手製のミントティーとレモンタルトを供された。

「わたしは失礼して、外で一服してきます」甘いものは苦手だと言わんばかりに運転手が外へ逃げてゆく。仕方なくかじったタルトは思ったより美味で、ああ、わたしのパイが冷めてしまう、とわたしは思い出す。

「あのう、そろそろ、地図を…」。
「地図?」婦人はほほえんだ、「そんなものはもう必要ないのよ。あなたは、ここに住むのだから」。

言うやいなや婦人は倒れ息絶えた、そこに慌てた運転手がやってくる。庭師もまた、同時に亡くなったのだ。

そうしてかつて運転手だった男は手慣れた様子で庭に二つの遺体を埋め、そこに花を植えた。まるでずっと前から庭師だったような、そんな顔で。そしてわたしははるか昔からここの主だったかのように毎日まいにち花を愛で、パイを焼く。


次の 客 が来るまで。










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