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満月の光に導かれ、海にもぐる。やがて水底に、幾重にもゆらめく海草に守られた城が見えてくる。近づくとそれは突兀たる奇岩から成り、まるで城らしくはない。しかし私にはそれが城だということが解っている。あたりは夜明けのような薄暮のいろ、涼しげな青に満たされ、かろやかなここちよさがわたしを包んだ。いくつもの道、いくつもの迷路を捌きながら奥へ奥へと進んでゆくと、突然視界が開け、広場のようなところへ出る。そこには大きな宝石箱があり、私はそれを開く。とたんにまばゆい光がわたしを包み込む。
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わたしは見しらぬひとの頭をひざの上に乗せ、その髪を撫でている。もうずいぶんと長いこと、わたしはこうしている。そのひとは静かに、穏やかな寝息を立てている。それだけでわたしは息詰るような幸福を感じる。 そうしているうちに、わたしの髪は伸び、肩を覆い、背に流れ、地に着くほどにもなった。かのひとは目覚めない。わたしの足は大地に根が生えたように何も感ずることはない。 草が生いでては枯れ、樹木が育ち、やがて見る間にわたしの周りに道ができ、街が出来た。かのひとはその頃ようやく目覚め、伸びをし、そしてわたしを見つめた。その眸は澄んでいて、とても美しかった。 「おはよう」 わたしは言った。 「おはよう」 かのひとも言った。 「ずいぶんと眠ってしまったようだね」 わたしはうなずき、ためらいがちに立ち上がる。かのひとは優しく微笑し、うながした。 「さあ、行っておいで」。そう、今度は、わたしが旅立つ番なのだ。
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十歳くらいの頃に見た夢。
よほど印象深い夢はこうしていついつまでも覚えている。