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ゆめ か うつつ か
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わたしは湯気の立つカップを片手に、むらさき色の空を見上げていた。

中世風のサロンでは、さまざまな国、さまざまな時代の人間が思い思いに腰掛け或いは茶を飲み、或いは煙草を喫んでいる。 ポンペイの貴婦人がアステカの王族と恋を語らい、清の宦官がカストラートと我が身の不幸をかこちあう。 
月に照らされたパティオ(中庭)の木陰で、ベールを被った女が眠っていた。

かれこれ十日ほど、わたしはこのホテルで何かを待っているのだった。
何か。
自分を変化させるもの、自分の未来、もしくは自分の運命そのもの…そういう類いの「何か」。

木々の合間、影絵のように微動だにしない鳥の群れを見上げわたしは思った。じき夜になる。

不意に一羽の鳥が鋭い叫び声をあげた、けたたましい羽音を立てて木から一斉に飛び立つ鳥の群れ、無数の羽と木の葉がわたしに降り注ぐ。

その途端、にわかに視界がぐるりと回り、わたしはわたしを見下ろしているのを感じた。

…飛んでいる!

群れの中、何よりも明確な意思が電気のようにぴりりとわたしを通して伝導する、

右、翼、翻せ

意思に従うと、世界がひとつ寝返りをうつ。
もっと遠く、もっと高く !

閃光のようにひらめいては消えるきれぎれの意識に紛れ、あたたかな声がわたしに届いた。

〈おかえり〉
〈おかえり〉
〈待っていたよ〉

待ちわびた時を迎えたわたしは至福の思いで空を舞い旋回する、
次第に遠く小さくなる中庭の片隅に、かつてのわたしの からだ が見えた。

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