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とりあえず。
『久生十蘭集』
「ハムレット」 財産目当てにハムレットの芝居中に男を殺そうとし、男は記憶をなくし自分が本物のハムレットだと思い込んで生きていたが…・改作前の「刺客」も読んだ、タイトルはもちろん、読後感も「ハムレット」のほうが良いけれど、私は「刺客」の救われない雰囲気のほうが好みかな…いろいろと無理がない。
「月光と硫酸」 庭に月が落ちている、っていいなあと思った直後、その月の真実。硫酸恐ろしすぎる。
「墓地展望亭」はふつうに面白い冒険小説だと思った、一国の女王様とのロマンス&逃避行なんて陳腐だけど時代を考えるとしょうがないし、大体筆力が違う。書き込み方が。
「水草」「骨仏」(どちらも愛人を殺した男のトリックを語り手である男が見破る話)あたりの三ページほどの中に短く要所を得た描写はすごいと思った!!
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横溝正史
『支那扇の女』 最近の選集に入ってないのが納得の「それってアリ!?」感。絵画にまつわる因縁、相次ぐ容疑者のの変化に文章やストーリーが面白いだけに、探偵のみが知りうる謎とかそういうのを駆使するのはアンフェアだと思うー。
『壺中美人』 ホモというかゲイの描かれ方が古風で、トリックも他のもので見た。猟奇的・背徳的な雰囲気のほうが推理よりも重視されてるのかなというところ。
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大江健三郎
「鳩」 少年院にて。院長の息子の足を折ったのに逆に感謝され、権力者の情婦として厚遇せられ、罰せられることを望む少年。あたしの経験から言えば、自分を罰するのもゆるすのも自分だけだ。これ読んでなんか北条民雄おもいだした、なんでだ?にてるのかな。
「見る前に跳べ」 娼婦、良重のヒモ大学生が、フランス語を教えていた女学生を妊娠させ、二人で新しい生活を始めるが女の事情で流産させなければいけなくなる。「見る前に跳べ」は良重の情夫ガブリエルの言葉だがしかし誰しも淵を除くだけで精一杯なものだ、跳ぶことなど一生、できない。
「下降生活者」 つきあっていただけませんか?人間同士の愛です・愛か…愛って何、と思う、この話の主人公は結局エゴイストだと最後まで自分のことを言っていたし同性愛の相手の学生の死の罪滅ぼしが愛だなんてことはないでしょう、饒舌であること、それはお前がエゴイストだということ。誰かに語らずに居られないというのは自己愛でしかない。
「鳥」一番まとまって面白かったかな。いつでも鳥が自分の傍に居るという狂気をもつ男が精神病院への強制入院を経てその幻覚を失う、そして幻覚をみることもできずに生きてゆかねばならない。あたしみたいじゃない?
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円地文子
「老桜」 ある女の一生を、その娘である女流画家の視点で語る。典雅な育ちゆえに幸福も不幸も意識することなく、四人の子供に冷たくも優しくも接しなかった、そのことで老境に入ってから子供と冷たい関係になる。ひとり、一番自分に似ていない娘だけが優しく接する「わたしの子はこの子ひとり」 ・「母は水生植物なの」 家族テーマに、しみいるようなこまやかな描写。
「冬紅葉」 五十を越えた新劇女優が、姪の見合いと結婚話を進めるうちに相手の若い男に擬似恋愛感情を抱くようになる。しかし友人(男性)が三十も年の違う女と恋をし、その様子を観て、「男は女をみごもらせることができるが自分には男の子をみごもることはできない」という空しさに、唐突に恋愛感情からさめる。こわい。
「なまみこ物語」 栄華物語拾遺として語られる物語。「生神子物語」、で、春日神社の巫女の娘姉あやめと妹くれはのうちくれはが中宮定子に仕える小弁として道長のスパイになるが… おりおり混ざる「栄華物語」本文に正直少しだれた。これがいいというひとも居るのだろう、しかしどうにも教養のない世代なので読みつけてない古文の長文を何の訳もなくぽんとそこに置かれてしまうと少しうっとおしくなる。そりゃ普通の人よりは読めるとは思うけどさ。
円地文子訳のあれは『おもろそうし』だったかな、中学のときすごく好きだった。流麗な日本語を書く人だと思った。女性らしい繊細な描写はわたしにはできないので憧れる。
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あとめぼしいのは、司馬さんの紀行シリーズでオホーツク紀行読んだ、この前行ったばかりだからなかなか補足的知識がついて面白かった(モヨロ貝塚発見経緯とか・)けど、やっぱり書き方がより「ドラマ風」に仕立てられてて…こういうふうに書いたほうが物語としては面白いのだろうけど真実かどうか疑わしくなってしまう。これが司馬史観てやつ?
あと古本屋で博物学の全集発見したからとりあえず『害蟲記』と『フィシオログス』だけ入手。フィシオログスは「中世ヨーロッパのベストセラー」がうたい文句、ようするに動物図鑑なんだけど「クジャク」とか「カエル」に混じって「ミュルメコレオン」(アリライオン)(勿論架空の動物)が混ざってたりするので油断ならない。絵もかわいい。この本についてはまた詳述したい。