ゆめ か うつつ か
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母は趣味でカンツォーネを歌うのだが、どういうわけか失恋の歌ばかり歌っている。
発表会が近くなると家のそこかしこに張り付けられる母の筆跡の歌詞は、どれも「憂い」とか「死」とか「別れのキス」とかそういう哀しげな単語に溢れており 正直子供としては失笑を禁じえない。
失笑ならまだいいほうで 親父は<車を停めて、もういいの、部屋までこないで>というフレーズに「部屋までこないで!部屋までこないでだってさ!」と 爆笑していた。無理もないと思う。そんな親父に母は訳知り顔で「辛い人生を送らないと歌なんて歌えないのよ」と言う。なるほどそうかもしれないが、わたしの考えでは芸術は「そのもの」ではない。限り無く真理に近づきえた虚構、それが芸術のスキルであり才能。
その証拠に、今までの生涯で失恋など一度もしたことのない母の歌、初デートの相手と結婚して四人の子までもうけた母の歌は、十分芸術に値するからね。
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