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ゆめ か うつつ か
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近くに川がある。

もう少し遡れば渓谷となり太公望でも居そうな雰囲気だが、とろとろ流れる下流でも、季節ともなると釣り人がそこかしこに糸を垂れる。

あいにくそんな好適地に居ながらわたしはほとんど釣りの経験が無い。親父なんかは小さいころずいぶんいろいろ釣って、近所の池の鯉まで釣って、ほんとに釣れると思わなかった立派な緋鯉が釣れたので腰を抜かしたらしいが、今は「殺生はイヤだ」と専ら茸や山菜取りに転向してしまった。そこへゆくと亡き伯父は釣り道楽で、鰍の唐揚げなぞをよくご馳走になった。あの味は今も懐かしく思い出す。

ずいぶん前の話だが、父の知人でなかなか本筋の釣客が居り、わざわざ自分で藤蔓を加工した、朱塗りの立派なタモ網を譲ってもらったことがあった。それをわざわざ田舎の山小屋まで持ってゆき、有り合わせの竹竿に糸を付け小屋の前の小川に垂らしたが、当たり前のように坊主だった。今考えても馬鹿らしくて笑えてくるが、そのときわたしが付けた糸は、祖母の刺繍箱から取り出した縫い糸だったのだ。ざりがに釣りじゃあるまいし、あんな弾力のない糸ならまだしも髪の毛のほうがマシだろう。確か井伏鱒二が髪の毛をテグス代わりに毟られた話を書いていた。そのときのわたしは、とにかく釣りの真似事をしてみたかったのだ。

そう言えば小さいころ、たまに行く駄菓子屋のことを「つりぐ」と呼んでいた。年かさの子どもがそう呼んでいたから口まねをしていたのだが、駄菓子の奥には確かに釣具が並んでいた。派手な色の浮きがちょっと綺麗だなと思ったが、それきりだった。

漢詩や漢文、墨絵によく出てくるような、のどかな風景につきものの漁夫、釣り人というのはいかにも風雅なオモムキで、いつか自分もそういった古淡の風景に溶けこみたいと思うのだけれど、未だ果たせずにいる。

爛柯の例えではないが、藤蔓の網が腐らない内に、水上で魚と戯れてみたい。ユルスナールの短編みたいに、墨絵のなかに紛れたい。

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