ゆめ か うつつ か
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壱
突然、わたしは北京に居ることに気付いた。
Kちゃんと一緒である。何故だろうと考えて、ああそういえば月末に北京へゆくので下見に来ているのかもしれない、と思いなおす。ともかくホテルへ戻らなければ。Kちゃんは全く中国語を解さないので、わたしがバスを捕まえる。運転手はタバコを手にしたおばさんで、片手運転で道端のシマウマをひきころした。
「動物園さ」
おばさんがくわえタバコで言った、
「弱った動物はすぐ道路に放り出すんだ。処分がラクだからね」
ひどい話だが、あり得ない話ではなかった。なにしろここは中国なのだ。しかし運転が荒い。このままでは事故に遭いかねない。わたしはバスを降り、地下鉄でホテルまで行くことにした。
しかし地下鉄はモンスターさながらの物乞いに溢れ、さながらゲームの地下ダンジョンのようだ。地下鉄に乗るのではなかったと後悔する間もなく、列車はもの凄いスピードで走り始める…
弍
嵐の中、車を駆って買い物へゆく。通りには水が溢れさながら洪水のようだ。倒れた看板がアスファルトに穴をあけ、ひどい有り様だ。しかしわたしは安全な車の中に居る。激しい風と雨から守られ、温かく快適な乗り物でわたしはスーパーへとたどり着く。
スーパーはしかし嵐に侵食され、ほとんど開店休業状態だった。床は水びたし、棚は荒らされ、電気は半分切れている。薄暗い店内に崩壊した天井から雷鳴の光が差し込み、店員ばかりがなすすべなくゾンビのようにさ迷っていて、客はわたしひとりなのだ。
この状態でよく店を開けるものだ、と思ったが、ともかくも散乱した缶詰めを拾いあげわたしは買い物を済ませる。
外へ出るといつの間にか嵐は治まり、目の前にははろばろと蒼白い氷原が広がっている。流氷が接岸したのだ。わたしの車はぺしゃんこに潰れていたがそんなことはどうでも良かった、わたしは袋を投げ捨てると一面の氷に向かって走り出した。
参
クラスメートの葬式が、母校のチャペルで行われている。
わたしは自分が鮮やかな黄色のデニムを穿いて来てしまったことに気付く。
このままでは参加できない、困ったなあと中を伺っていると、黒一色の会場に、滴るように赤いシャツの男がちらりと見えた。そうか、それでもいいのか、と思いつつチャペルへ入ったが、確かに見たはずの赤い男はどこへ姿を消したやら、とんと見えない。わたしは周囲の視線を避けるよう端に寄った、ひとりの男が寒いのかぶるぶる震えている。
広間の中心に、棺がふたつ用意されていた。
ふたつ?
訝しく思っていると、長柄の燭台を捧げ持った女、隠しきれない年齢を派手な化粧で覆っている修道女が厳かに呟いた。
「このふたりは、ひとりの男を取り合って、お互いに殺し合ったのです。天にまします我らの父よ、御名が尊ばれますように。御国が来りますように。その大いなる慈悲の翼をお示しください」
アーメン、という唱和と共に、参列者がゆるやかに動き始める。毒々しい紫色の蘭の花を死者に供え列は進む。わたしの隣にいた男は震える足でおそるおそる棺に近づくと、花を投げ入れ逃げるように立ち去ろうとした。
そのとき棺の中から死者たちの手が伸び、男の腕を掴んだ。
「「お前を待っていた!私たちを殺したお前を!!」」
身の毛もよだつような声でそう言うと、死者の腕はたちまち男を引き裂いた。男のシャツは血に染まり、わたしは、先ほど見えたシャツの赤は、男自身の血を幻視していたのだと気付いた。
突然、わたしは北京に居ることに気付いた。
Kちゃんと一緒である。何故だろうと考えて、ああそういえば月末に北京へゆくので下見に来ているのかもしれない、と思いなおす。ともかくホテルへ戻らなければ。Kちゃんは全く中国語を解さないので、わたしがバスを捕まえる。運転手はタバコを手にしたおばさんで、片手運転で道端のシマウマをひきころした。
「動物園さ」
おばさんがくわえタバコで言った、
「弱った動物はすぐ道路に放り出すんだ。処分がラクだからね」
ひどい話だが、あり得ない話ではなかった。なにしろここは中国なのだ。しかし運転が荒い。このままでは事故に遭いかねない。わたしはバスを降り、地下鉄でホテルまで行くことにした。
しかし地下鉄はモンスターさながらの物乞いに溢れ、さながらゲームの地下ダンジョンのようだ。地下鉄に乗るのではなかったと後悔する間もなく、列車はもの凄いスピードで走り始める…
弍
嵐の中、車を駆って買い物へゆく。通りには水が溢れさながら洪水のようだ。倒れた看板がアスファルトに穴をあけ、ひどい有り様だ。しかしわたしは安全な車の中に居る。激しい風と雨から守られ、温かく快適な乗り物でわたしはスーパーへとたどり着く。
スーパーはしかし嵐に侵食され、ほとんど開店休業状態だった。床は水びたし、棚は荒らされ、電気は半分切れている。薄暗い店内に崩壊した天井から雷鳴の光が差し込み、店員ばかりがなすすべなくゾンビのようにさ迷っていて、客はわたしひとりなのだ。
この状態でよく店を開けるものだ、と思ったが、ともかくも散乱した缶詰めを拾いあげわたしは買い物を済ませる。
外へ出るといつの間にか嵐は治まり、目の前にははろばろと蒼白い氷原が広がっている。流氷が接岸したのだ。わたしの車はぺしゃんこに潰れていたがそんなことはどうでも良かった、わたしは袋を投げ捨てると一面の氷に向かって走り出した。
参
クラスメートの葬式が、母校のチャペルで行われている。
わたしは自分が鮮やかな黄色のデニムを穿いて来てしまったことに気付く。
このままでは参加できない、困ったなあと中を伺っていると、黒一色の会場に、滴るように赤いシャツの男がちらりと見えた。そうか、それでもいいのか、と思いつつチャペルへ入ったが、確かに見たはずの赤い男はどこへ姿を消したやら、とんと見えない。わたしは周囲の視線を避けるよう端に寄った、ひとりの男が寒いのかぶるぶる震えている。
広間の中心に、棺がふたつ用意されていた。
ふたつ?
訝しく思っていると、長柄の燭台を捧げ持った女、隠しきれない年齢を派手な化粧で覆っている修道女が厳かに呟いた。
「このふたりは、ひとりの男を取り合って、お互いに殺し合ったのです。天にまします我らの父よ、御名が尊ばれますように。御国が来りますように。その大いなる慈悲の翼をお示しください」
アーメン、という唱和と共に、参列者がゆるやかに動き始める。毒々しい紫色の蘭の花を死者に供え列は進む。わたしの隣にいた男は震える足でおそるおそる棺に近づくと、花を投げ入れ逃げるように立ち去ろうとした。
そのとき棺の中から死者たちの手が伸び、男の腕を掴んだ。
「「お前を待っていた!私たちを殺したお前を!!」」
身の毛もよだつような声でそう言うと、死者の腕はたちまち男を引き裂いた。男のシャツは血に染まり、わたしは、先ほど見えたシャツの赤は、男自身の血を幻視していたのだと気付いた。
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