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ゆめ か うつつ か
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山道を、車で走る。


どこを目指しているのか、自分でもよく分かってはいない。日が暮れる迄に船に戻らなければ。
そう思いつつ一本道をたどってゆくと、やがて古い神社に着いた。草深い杜の中、そう言えば子供の頃、ここで黒い仔犬にパンをあげたっけ、と思い出す。ぺろぺろと顔を舐めてくるのも人懐こい、あれはかわいい仔犬だった。

と、がさがさと茂みが鳴り、わたしは大きな黒狼に出くわした。怯えるわたしに、かれは突然人語を話す。

「お前を待っていた。お前は俺の花嫁になるのだ」

わたしは驚いて車に飛び乗ると、アクセルを踏む。狼は矢のような速さで車の後をつけてくる。

夢中で車を飛ばす、後ろばかり見つめていたわたしは目の前に大きな黒雲が迫っていることに気づかなかった。車ごと雲に呑み込まれ、わたしは咄嗟にドアから外に逃れる。

転がりこんだ木陰にはまたあの狼が居て、わたしは思わず悲鳴をあげた。

「待て、」

狼は言った。

「追いかけていたのは自分ではない。俺は既に神ではなくなった。花嫁を得られぬ神は力を失う。お前は俺を拒んだ、俺はこの地を去らねばならない」

そこに黒雲が群がり現れた。狼は稲妻のような速さでわたしを拐うと、獣道を滑り下りた。目のくらむような坂道をなめらかな、やわらかな毛皮に包まれてわたしは、この上なく安全に地上へと運ばれる。

助けてくれたかれをそのまま置いて帰るのは忍びなく、わたしは狼を連れて船に帰る。
しかし私もかれと変わらない身なのだ、居候として乗ってきた飛行船には意地の悪い五つ子が待ちかまえ、部屋をぐちゃぐちゃに汚している。

狼と私は倉庫に追いやられ、シンデレラさながらの生活を送る。疲れた日でも、狼は撫でてやると喜び寄り添った。まるで犬みたいに。 実際、かれは流浪の身となってから、人語を忘れてしまったようだった。

そうしてわたしは次第にかれを親しいものに思いはじめる。そうだ、かれがかれでなければ愛することも容易なのだ。





異類婚、になりそこねた夢。



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