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ゆめ か うつつ か
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①わたしは三十年来行方不明である、伯母の住まいを訪れた。

夏の暮れかた、湯上がりに裸足のままでベランダに消えた伯母は、そのときかぞえで二十二だったという。
「暑い日だったよ」
と、母は懐かしそうに語るのだった、振りかかった突然の不幸に戸惑い嘆く時期はとうに過ぎただ運命に従う人間の穏やかさだった。わたしはそんな母に不満を覚えた。伯母の物語を過去のことだと思いたくなかった、もしかして今再びひょっこり現れるかもしれないではないか。何にせよいわくのある家を訪れることに、冒険めいた感情を抱いていたのだ。

今は住む人もまばらな寂れたアパートの、伯母の部屋は四階だった。黴臭いソファに横たわり寝返りをうつと、たちまち眠気がやってくる。わたしはそのままうとうとと眠りこんだ。

夜半過ぎだったろうか、背後でかたりと音がしたかと思うと、瞬く間に気配が増えた。すわもののけか、と思うわたしの耳に、ブツブツニャアニャア、ラジオのノイズのように聞き取れない喧騒が聴こえてくる。楽しげに歌いさわぐ、そのささやかな宴を背中に聴きながら、わたしはいつしか深い眠りに落ちた。
夜が明けると、ベランダにはたくさんの足跡が入り乱れていた。

そしてわたしはわたしが神隠しに遇わなかったことを、少しだけ残念に思うのだった。


②わたしは夕暮れの海辺に佇んでいる。ところせましと屋台が並ぶチャイナタウンを抜けたところに、思いがけなく海が開けていたのだ。やわらかな砂の上に様々な貝が落ちている。戯れに幾つか手のひらに乗せてみた、穴の空いたもの、渦を巻いたもの、いつしか夢中になって拾い集めた。
そのうちに、紫色の薄い殻からころんとましろい粒が転げ落ちた。それは針の頭ほどしかなかったが、紛れもなく真珠だった。
小さな幸福感とともにわたしは顔を上げた。なまぬるい潮が満ちてわたしの膝を濡らす。

じきに夜だった。





昨日は通り魔が無差別射撃しているのを横目で眺めつつ、会社に急ぐ夢を見た。いくら走っても会社にはたどり着けず、通りすがりに梅林でよい香りの梅の花をもらったり、ソーダアイスを食べたりした。


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