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マンディアルグ
「異物」
書棚に棲み付く家蟹蟲。香りの探求。
良い香りと悪臭は紙一重って、いかにもフランス人ぽい意見だな。
「ダイアモンド」
ユダヤ人宝石商の娘とライオンがダイアの中で交わる。幻想的、SFと言ってもいい。多角体に閉じ込められ、その青いひかりを紅く変える。宝石の鑑定には真裸で臨む娘の儀式もゆかしい。
澁澤の『犬狼都市』の元ネタらしいがこれはこれ、あれはあれでずいぶん別物の気がする。キュノポリスはSFより幻想味がつよくて、ダイアの中に閉じ込められたときに無粋な他者(ダイアモンドでいう「父親」)が介入してこないのが好きだ。より説明を省くこと、物語を簡潔なさしむること。
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『犬神博士』 夢野久作
犬神博士こと大神二瓶の半生記。生れもわからぬ、両親に少女の格好で踊らされていた異常に賢い子。花札の手が見える。
饒舌すぎて飽きた。
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『飛鳥高名作選』 「犯罪の場」その他。
「二粒の真珠」
ジャッキで部屋ごと持ち上げるトリック。真珠がありえない場所に転がっていたことから暴露される。
んん?このネタA氏の小説で使いまわされてた…
「細すぎた脚」
建築家の虚栄のために殺される弟子。「密室なんて無意味」、どうして密室になってるかの方が重要。
トリックはともかく、解決後の建築家の独白・真相が面白い。ほどよく心理描写が入ってるほうが好き。
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『R62号の発明・鉛の卵』 安部公房
この短編集はあたり。
R62~はリストラされ機械化される人間の話。復讐の要素もあり。こええ、けど好きだ。鉛の~は、卵の中に保存され百年後に目覚めるはずの男が80万年後に目覚める。これもこええがラスト、ほっとできる。めずらしい。
個人的に「死んだ娘が歌った」が好み。出稼ぎに行った娘の自殺。
「町は海のようで、わたしは溺れてしまうに違いないのでした」「わたしは自分の自由意志に溺れたのです」
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『11枚のとらんぷ』 泡坂妻夫
軽快で軽妙、笑いも取り入れてておしゃれ。
手品同好会の冷や汗もののお披露目会のラストで、女性が殺される。
周囲には、同好会の主催者が書いた小説『11枚のとらんぷ』の小道具が置かれていた……
二章にはその手品をもとにした小説がまるごと、三章で謎解き。
事件そのものより手品のトリックに考えさせられる。
犯人は動機を考えたら一発でなるほどね、と思わせられる人。
しかしなんだな、文章がちと洒脱すぎていまいちリアリティが……好みわかれそう。
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『夜ごとのサーカス』 A・カーター
19世紀末、ロンドンで「下町のヴィーナス」、翼の生えたフェヴァーズの驚異的な半生を取材するアメリカの新聞記者、赤毛の青年ウォルサー。売春宿における活人画としての少女時代、怪物を売りものにするマダム・シュレック(眠り姫の話はぐっときた)に売り飛ばされ伯爵の生贄を脱し、サーカスへ。
ウオルサーは道化になってサーカスにくっついてペテルブルクへやってくる。サル使いの妻、哀れなミニヨンを救うウオルサー。フェヴァーズはミニヨンに嫉妬するが、彼女の歌の才能を見出す。
列車がアナーキストに爆破されシベリアに放り出された一行。ウオルサーは記憶を失い、フェヴァーズたちは寂れた音楽学校にたどり着く。
ヒロインフェヴァーズが怪物みたいで、クールとグロテスクの中間。
人類学伝承民俗・社会学ごたまぜなかんじ。フーコーの放射状監獄とかね、どっかで見たぜこんな伝説・もしくは学説、てのがちらほら、作者はきっとこういうの好きなんだな。
売春やら性に関する言葉・行為やらいろいろ隠されてなくていいのかなーとか思うが、しかし、どちらかといえばその下品さは作品の魅力を増している。ラストの混沌、何も解決してないっぽいのに終わってる、そのへんが新しいかな。
『血染めの部屋』しか読んでなかったので長編いけるかどうか心配だったがわりとすらすら読めた。
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『デイプロトドンティア・マクロプス』 我孫子武丸
京都で探偵社をひらく主人公に、或る日二件の失踪事件の依頼が。
大学教授とカンガルー。これらの事件をめぐって主人公が襲われる。
「巨大にする遺伝子」ゴライアスを注入され、京都タワーでの巨大カンガルーとの一騎打ち。
このへんおおわらいだった、やはりこの人の作品には深遠なユーモアセンスを感じる。
謎やハードボイルドめいた要素はないし盛り上がりもイマイチかけるけどこれがこの人の味なんだと思う。わたしはこういうセンス、わりと好きだ。ひとつだけいえるのはこれは笑える小説だということ。
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あと柳田の 『子供風土記』はこの頃からもう上の遊びが下に受け継がれなくなっていることが記されててちょっとおもしろかったな。この前知人にもらった『不登校はなぜ起きるか』の冊子はレビューを書きたいが全てが面白いので逆に何を書けば良いかわからない。でもちょっと自分だけで楽しむのがもったいないんだよね、今読み直してる鶴見俊輔氏の『戦時期日本の精神史』『戦後日本の文化史』も同様で、あまりにも興味深いのでいっそ何もいえなくなる。