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ゆめ か うつつ か
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小さい頃、わたしが一番好きな食べ物はグラタンだった。

わたしが六歳頃の世相(=バブルはなやかなりしとき)のことを考えても、うちはそこまで裕福な家ではなかった。月に一度、父の給料日にファミレスに家族揃って食事にゆくのが唯一の贅沢、そんなときわたしが決まって頼むメニューがグラタンだった。当時わたしはどうにも食が細く、おまけに大した偏食で、味が気に入らなければひとくちで箸を置く生意気な子どもだった。あまりに少食なので、大人になれないのではとすら思われていたらしい。ゆえに、母はなぜ子どもにもとっつきやすい、少量のお子さまメニューを頼まないのか、少なからず困惑したという。

答えは簡単、その頃わたしは『グラタンおばさんと魔法のあひる』という児童書に影響されていたのだ。グラタン皿のあひるが逃げ出していろいろなご馳走の皿を遍歴する話だが、いやはや、形には顕れずともその当時、既にわたしは食に対して非常な関心を持っていたらしい。熱々ホワイトソースのマカロニに、とろけるチーズとほうれん草、世にも美味しそうな描写にまず舌より先に脳がやられたのだった。爾来、グラタンならば美味でないはずはないとまでの勢いを持つまでになり、幼少の思い出の味として、メニューにグラタンがあればつい注文してしまう。

つまりは……脳内、形而上のグルマンというわけ。安上がりで結構じゃない?





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