ゆめ か うつつ か
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やわらかい匂いで目が覚めた。
露にしとど濡れそぼった体は、戸外で夜を明かしたことを意味している。
季節は春、夜はまだ明けきらず、薄明の中、どこからか鳥の声がする。ふわり、何かがわたしの頬を掠めた。つい先ほどから、優しくわたしの体に降り注ぐ羽のような感触がある。わたしはまぶたを閉じたり開いたり、しばしまどろむ。
やがて陽がのぼり、山のふちを朱に染める。こぼれるような光があたりを照らし出してはじめて、わたしは桜の花弁をしとねに眠っていたのだと気付く。
そうだ、わたしはこの山に桜を観にやってきた。樹を探して山深く分け入るうちに睡魔に襲われてここに身を横たえたのだ、とわたしは思い出す。またふわりと花弁が降ってくる。
見上げると、そこは視界を埋めつくすほどの、桜。
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