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ゆめ か うつつ か
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わたしは兄とふたり、暗い海原を漂う船に乗っていた。

兄は見知らぬひとである。わたしも見知らぬひとであった。
しかしわたしは知っていた、兄は戦争に行くためにこの船に乗っているのである。

死ぬために行くのですか、

と問えば、

死ぬため以外になぜ生くるのだ

と兄は笑った、その「いく」ではないのだと言おうとしたその時、さっと雲が割れ、射し込んだ月光にあやしの影が晒された。

それは緑色の、ぶよぶよした、不透明なゼリーのような物体だった。月明かりのもと、ぐんにゃりとやわらかく蠕動し、次第に透明度を増してゆく。ほどなくして、それは「女」をかたちづくった。刻んだような目鼻立ち、黒々と長い髪、硬質な輝きを放つ緑色の肌。ただその大きな目には、瞳孔が無かった。

ああこれが噂に聞く海妖だな、とわたしは思ったが、何故だか一歩も動けない。

女は兄に向かいゆっくりと手を差し伸べた。兄は女に魅いられたように腕を預け……、
そして女は、それまでの緩慢な動作からは想像もできぬ素早さで兄を海の中にひきずりこんだ。

声なき声をあげ落ちてゆく兄。ほどなくざんと飛沫く音。波間に漂うましろい制帽。


呆然と暗い海を見下ろすわたしに、微かな哄笑が聞こえた。



真冬に見た夢。もっとディテールがあったのだが、記すにはその細部がジャマだったので忘れるまで待つことにした。
 

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