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ゆめ か うつつ か
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「天体現象のなかでなにがいちばん好き?」と問われたら、わたしは「流星群!」と答える。流れ星はいつ見てもワクワクするが、それが大挙してやってくる興奮と言ったら! 星の子が夜空をついつい滑ってゆくのは、何時間見ていても飽きない。

巷では金環日食が話題を拐っていたが、個人的に日食は、躍動感に乏しくやや地味な気がして物足りない。

ところで「金星太陽面通過」当日の朝はあいにくの雨だった。わたしはそんな現象があることすら意識していなかったのだが、たまたま約束があって姉と井の頭公園を歩いていた際、雨上がりの木々の間から漏れるわずかな陽光に反応し、姉が電光石火、日食グラスを取り出したので大層驚いた。

「!? こないだの日食、見たの?」
「ううんー、日食は興味なかった。だって日食は、お金と時間さえあれば世界のどこかでまた見られるんだから! でも金星太陽面通過は今回逃したら次は百年後、ラストチャンスだもん」

なるほど、そういう考え方もあるのか。

「それにしても、そういうイベント好きだったっけ?」
「え、はじめは興味なかったんだけど。ネットで『バレーボールくらいの太陽を、パチンコ玉くらいの金星が、すーっと通り過ぎる』って書かれてて、なにそれカワイイ!!ってなった」

ようは天体萌えー!みたいなことだろうか。我が姉ながら変なヒトだ、と思いつつ、わたしもグラスを貸してもらって覗いたところ、煙のようにたなびく雲間に輝く太陽のなか、ぽつりと黒い点のような金星が佇んでいた。

うん。確かに、なにかこう、ケナゲな感じがカワイイ。







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先の週末、祖母の葬儀がしめやかに執り行なわれた。

しかし、葬儀が滞りなく終わった瞬間から、親類縁者のいざこざが始まってしまった。安いハリウッド映画ばりに伏線が張られ、いくつものひっかけやどんでん返し、意外な人物の登場……息もつかせぬ展開に、唖然呆然。

いろいろショックです。

わたしは純粋に祖母を悼みたいだけだったのになあ……ちなみにわたしはいい年こいて孫代表の挨拶で大泣きしてしまった。さすがに自省していたら、弟に「いやあ、よくあんだけ葬式を盛り上げてくれたよ! みんな貰い泣きしてて、これぞ葬式!って感じでグッジョブだった。いち葬式にひとりは欲しいって感じ」と言われた。いざ金に困ったら泣き女でもやろうか。


しかしわたしの知る限り、葬式後に何だかんだ、揉めなかったためしが無いね。なんだろう、親類だからこそ、血が繋がってるからこそ、愛憎も深いんだろうか。


……の知らせを受け、嫌な予感がして眠れぬまま朝いちばんに病院へ駆けつけると、祖母は元気に介護士と喧嘩しているのであった。

「おばあちゃん、病院のひとの言うこと、聞かなきゃあ」と言うと、いたずらを見つかったこどもみたいな表情で言い訳をする。「だって、愛が無いんだもの」。

愛か。愛ねえ。そいつは難しいよばあちゃん。あたしばあちゃんのこと大好きだし尊敬してるけど、病院の人は基本お金、つまり賃金で動いている。でもそれだって、まやかしだって、愛は愛なんだよ。すべて愛は元々まやかしで、自分で積み上げ育てていくものだが、しかしそのためにはまず自分が愛さないといけない。

つまり祖母は今、他人を愛せぬくらい、ただひたすらに寂しいんだな。

と思い、「わたしはおばあちゃんが大好きだから、またゆっくり会いたいから、だから病院の言うこと聞いてね」と言い改めた。それで仕事に行かねばならない時間になり、慌てて病院を出た。祖母は「また来てねえ」と手を振っていた。

それが最後になったので、やはり行ってよかった。大好きだと伝えられてよかった。


おばあちゃん大好きだ!!


わたし「Aちゃんって蟹座なんだよ」
Aちゃん「えー? あのかに?」
わたし「そう、ちょきちょきするあの蟹」
Aちゃん「どうやってえ?」

どうやって・・・・・なんだろうか???

うむ、深い。





女の子だけあってわりとおしゃべりで、おとなの話にいきなり混ざってきたりもする。このくらいになると個性がはっきりしてきて面白いな。好きな色はピンクと赤、口癖は「おんなのこだもーん」。そうだね、おんなのこだねえ。そのまままっすぐ女の子街道を驀進してくれよ。











 
祖母は病院を出たくないと言う。

誰の足音もしない、しんと冷たい施設の空気よりも、消毒液がつんと匂う病室がよい、病気ならば皆がたえず見舞いにきてくれるから寂しくない、帰りたくないと泣きそうになりながら言う。

「ここに寂しさと悲しさがたくさん、たくさん詰まっているの」と、胸を押さえる祖母に何もできず、ただひとかけらずつ氷を含ませながら、逆縁という言葉についてわたしは考えていた。


ああそれにしても近親憎悪って聖書以来永遠不変のテーマだわ。誰しもいちばん赦せないのは身内なんだね。愛してるからこその甘え。

(いちばん赦せないのは自分だけだ。この世で最も憎い、最も殺したいのは自分だけ)


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