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ゆめ か うつつ か
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三つほど用事があって、第ニの用事まで済ませてやれやれと思って電車乗ろうとしたら人身事故に妨害されたので、いい陽気だったし武蔵野の大地を散歩して古本屋をはしごして本を漁った。



渡辺隆次『山のごちそう』 正直、絵に惹かれて買った。ふきのとうとかタラノメとか…キレイ!山野草の料理法がいっぱい載ってるので勉強するぞ~!後半、山暮らしのエッセイがすごく羨ましかった…あたしもこんな生活したい…

岡本綺堂『青蛙堂鬼談』 百物語形式に雪の夜、怪異な物語を話していく。話のひとつひとつが短くて読みやすいしいろんなジャンルの話が混じってて飽きない。やっぱり中国古典からいろいろ引っ張ってきてるのがわかるけど、巧い。「一本足の女」「青蛙神」「猿の眼」あたりが好き。

ラフカディオ・ハーン『日本の面影』 持って帰りたいような日本の風景…外人から見た日本の描写は魅力的だといつも思う。寺めぐりもいいけど、盆踊りの描写が面白かった。あたし日本人だけど盆踊り描写できないよ…西洋の風俗を広めようとする宣教師の批判をしてるけど、現在こんだけ欧化しちゃった日本を見てどう思うだろか。

江戸川乱歩 『孤島の鬼』 何度読んでもドキドキする。諸戸道雄の、箕浦への恋情が切ないなー。箕浦も恋人の灰を食うぐらいにはエキセントリックなくせに、どうして秀ちゃんを選ぶかな。壺のトリックはついこないだ横溝ので読んだやつと同じだった…トリックではなくて筆力とドラマ性がイイ。 

福永武彦『死の島』 Yさんオススメ。おもしろかった!文学したという感じ。読むそばから自問し始めるような、そういう内的作用を及ぼす本はそれなりに気合い入れないと読めない。
結末が三つ用意されてるのが新しい。二人の女が広島で心中して一人だけ死ぬ。男は広島に向かう列車で自分の書いた小説を読み返し三人の道程を振り返る。もう一人、ヒモ男の視点でA(綾子?)との関わりが書かれてて、この視点を入れた意味が…よく…わからなかった…もう何回か読みたい…
綾子はおとなしく慎ましいお嬢さんだけど家庭の問題からついにヒモ男と駆け落ちする、素子は広島で被爆し体と心に傷を持つシニカルな絵描き、絶望を内包しつつ生きる、二人は戦争未亡人の家の二階に共に住む。出版社づとめの主人公の男(相馬鼎)は素子の絵を本の装丁に使いたいと願い二人のもとに通う・・・
「死の島」は素子の島の絵に似ているアルノルト・ベックリンの絵のタイトル。芸術論が読み応えあり。シベリウス。素子のモノローグ、カタカナ表記読むの辛かった…

「廃市」 三角関係と傍デ観ル者。卒論を書くため水路のめぐらされた静かな町へ行く主人公。貝原家に世話になるが、主人夫婦は別居し妹の安子と祖母のみ。姉の郁代はなぜか寺にこもっている。姉の夫、直之は秀という愛人とふたりで済み、このふたりが心中する。遺された女二人、直之が真に愛していたのは…・?

滅びゆく町と人、水路は人口だから退廃であるという論理。

「影の部分」なんて、母娘と三角関係だもんね。こういう図が好きなのかなー。解説でも言われてたけど・死の島と構図は反対、語り手を徹底的に枠外に置くことは、この分量で話をまとめようとしたからかとかんぐった。そうだとしたらうまくいってると思う。直之が愛してたのは安子じゃなかろうか、と主人公は最後に憶測してるけどあたしもそう思った、つうかそう受け取るのが作者の意図だよね。しかし安子も郁代も、直之みたいにやる気も甲斐性もないやつはさっさと棄てて街から逃げればよかったのに。そうすると話になんないけどね!

だいぶ前の読書メモ出てきたのでしるす↓

大江健三郎『死者の奢り・飼育』 
「死者の奢り」はデヴュー作。解剖用死体を片付けるバイトに応募した「僕」、妊娠した女子学生と管理人と水槽に浮かぶ死体を片付ける・死者とかたらう・羊水に浮かぶ胎児と水槽の死者の対比、生と死。この時代でなければ書けない…
「飼育」 中学の時以来。トサツされる黒人兵、指を失う、アンファンテリブル、性を描くのを懼れない。
でもやっぱり好きではない





あと最近の…綾辻さんやらありすがわさんなんかも手出してるけどなんかやっぱり、しっくり来ない…

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マルグリット・デュラス/平岡篤頼訳
「木立の中の日々」 いわゆる今で言うニート、のジャックの母がパリにやってくる。母は同居人(つうか恋人)マルセルとどうしようもない生活を送っているのをみる。働かない。金は嫌いだから、と嘯いてバーで名前のない仕事(ホスト)をやるジャック。うーん途中までとてもおとーとを髣髴とさせる…
「 ボア」 毎週日曜日に動物園で大蛇の嚥下(デヴォラシオン)と老嬢の裸(悔恨に飲み込まれる;嚥下)を見せられる少女の話。きもちわるい。そこがいい。

井伏鱒二
『白鳥の歌/貝の音』 マトモに読んでるのは白鳥の歌だけだけど。
なんか借金のかたに劇団に置いてかれた女形の梧桐が語り手にチェーホフの「白鳥の歌」の改編を頼んだけど結局夜逃げして…とかいうたあいもないエセーだった。
殴られた梧桐(女形、っつうかオカマ)のけらけらと笑う声が聞こえてきそうで眩暈がした。

ドナルド・バーセルミ/柳瀬尚紀訳
『王 the king』  アーサー王物語が!アーサー王物語が!こんなふうに!解釈されるなんて!只者じゃない!バーセルミ!やけに皮肉っぽい登場人物が!やけに俗っぽい登場人物が!リアルに書かれて!現実のイギリス王室への皮肉も書かれて!

…とまあこんなふうだったり、諧謔的だったり。バーセルミ好きだ。

内田百間
『御馳走帖』
戦時下、食べたいものを列記しただけの簡潔なエセー。久々に読み返したけどやっぱり面白い。
アイスクリームは食べるか飲むかと問われたらば、やはり食べるのだと思いますよ。煙草は二十歳を過ぎてからだとも思いますよ。

小川博編 瀛涯勝覧
『中国人の南方見聞録』
吉川弘文館 / 明代馬歓の撰したものの翻訳と注解。
今日の東南アジア・インド洋・ペルシア湾からアフリカ東岸への海路遠征など。地図辿るだけでも面白い。

とりあえず。

『久生十蘭集』
「ハムレット」 財産目当てにハムレットの芝居中に男を殺そうとし、男は記憶をなくし自分が本物のハムレットだと思い込んで生きていたが…・改作前の「刺客」も読んだ、タイトルはもちろん、読後感も「ハムレット」のほうが良いけれど、私は「刺客」の救われない雰囲気のほうが好みかな…いろいろと無理がない。
「月光と硫酸」 庭に月が落ちている、っていいなあと思った直後、その月の真実。硫酸恐ろしすぎる。
「墓地展望亭」はふつうに面白い冒険小説だと思った、一国の女王様とのロマンス&逃避行なんて陳腐だけど時代を考えるとしょうがないし、大体筆力が違う。書き込み方が。
「水草」「骨仏」(どちらも愛人を殺した男のトリックを語り手である男が見破る話)あたりの三ページほどの中に短く要所を得た描写はすごいと思った!!



横溝正史
『支那扇の女』 最近の選集に入ってないのが納得の「それってアリ!?」感。絵画にまつわる因縁、相次ぐ容疑者のの変化に文章やストーリーが面白いだけに、探偵のみが知りうる謎とかそういうのを駆使するのはアンフェアだと思うー。
『壺中美人』 ホモというかゲイの描かれ方が古風で、トリックも他のもので見た。猟奇的・背徳的な雰囲気のほうが推理よりも重視されてるのかなというところ。



大江健三郎
「鳩」 少年院にて。院長の息子の足を折ったのに逆に感謝され、権力者の情婦として厚遇せられ、罰せられることを望む少年。あたしの経験から言えば、自分を罰するのもゆるすのも自分だけだ。これ読んでなんか北条民雄おもいだした、なんでだ?にてるのかな。
「見る前に跳べ」 娼婦、良重のヒモ大学生が、フランス語を教えていた女学生を妊娠させ、二人で新しい生活を始めるが女の事情で流産させなければいけなくなる。「見る前に跳べ」は良重の情夫ガブリエルの言葉だがしかし誰しも淵を除くだけで精一杯なものだ、跳ぶことなど一生、できない。
「下降生活者」 つきあっていただけませんか?人間同士の愛です・愛か…愛って何、と思う、この話の主人公は結局エゴイストだと最後まで自分のことを言っていたし同性愛の相手の学生の死の罪滅ぼしが愛だなんてことはないでしょう、饒舌であること、それはお前がエゴイストだということ。誰かに語らずに居られないというのは自己愛でしかない。
「鳥」一番まとまって面白かったかな。いつでも鳥が自分の傍に居るという狂気をもつ男が精神病院への強制入院を経てその幻覚を失う、そして幻覚をみることもできずに生きてゆかねばならない。あたしみたいじゃない?



円地文子 
「老桜」 ある女の一生を、その娘である女流画家の視点で語る。典雅な育ちゆえに幸福も不幸も意識することなく、四人の子供に冷たくも優しくも接しなかった、そのことで老境に入ってから子供と冷たい関係になる。ひとり、一番自分に似ていない娘だけが優しく接する「わたしの子はこの子ひとり」 ・「母は水生植物なの」 家族テーマに、しみいるようなこまやかな描写。
「冬紅葉」 五十を越えた新劇女優が、姪の見合いと結婚話を進めるうちに相手の若い男に擬似恋愛感情を抱くようになる。しかし友人(男性)が三十も年の違う女と恋をし、その様子を観て、「男は女をみごもらせることができるが自分には男の子をみごもることはできない」という空しさに、唐突に恋愛感情からさめる。こわい。
「なまみこ物語」 栄華物語拾遺として語られる物語。「生神子物語」、で、春日神社の巫女の娘姉あやめと妹くれはのうちくれはが中宮定子に仕える小弁として道長のスパイになるが… おりおり混ざる「栄華物語」本文に正直少しだれた。これがいいというひとも居るのだろう、しかしどうにも教養のない世代なので読みつけてない古文の長文を何の訳もなくぽんとそこに置かれてしまうと少しうっとおしくなる。そりゃ普通の人よりは読めるとは思うけどさ。

円地文子訳のあれは『おもろそうし』だったかな、中学のときすごく好きだった。流麗な日本語を書く人だと思った。女性らしい繊細な描写はわたしにはできないので憧れる。




あとめぼしいのは、司馬さんの紀行シリーズでオホーツク紀行読んだ、この前行ったばかりだからなかなか補足的知識がついて面白かった(モヨロ貝塚発見経緯とか・)けど、やっぱり書き方がより「ドラマ風」に仕立てられてて…こういうふうに書いたほうが物語としては面白いのだろうけど真実かどうか疑わしくなってしまう。これが司馬史観てやつ?
あと古本屋で博物学の全集発見したからとりあえず『害蟲記』と『フィシオログス』だけ入手。フィシオログスは「中世ヨーロッパのベストセラー」がうたい文句、ようするに動物図鑑なんだけど「クジャク」とか「カエル」に混じって「ミュルメコレオン」(アリライオン)(勿論架空の動物)が混ざってたりするので油断ならない。絵もかわいい。この本についてはまた詳述したい。

清張の『水の肌』読んでたら出てきておいしそうだったから真似っこ。今更だけど清張のカテゴリ作ってみた。これから読もうという人には思い切りネタバレだよね。すいません。本も、もう少し系統立てて推理とか歴史とかその他雑学とかに分けたほうがいいのかなーどうなんだ。読んだ本全部記してるわけじゃないしなァ…



『戻り川心中』 連城三紀彦
最近のミステリで佳品と評されているのは知ってたけど読んだこと無くて…『幻影城』で田中芳樹と一緒に何か書いてたのは知ってたけど特に興味も無かったんだけど…
川の流れがある地点で逆流する川のことを『戻り川』、そこで歌人が心中をはかるが、真に歌人が愛してた人は…というとこを謎解きに持ってきた話。
個人的には「桔梗の宿」のほうが好きかな。殺人事件の聞き込みにやってきた刑事と芸者。そこに再び起こる殺人事件。その理由は…、八百屋お七を地で行く話。あと「桐の棺」は、やくざの義兄弟とひとりの女の愛憎を描いててなかなか、屈折したエロス。

『杉浦日向子の江戸塾』 対談集なんだけどやー面白かった!純粋に、知らないことを知るのはとても面白い。北方けんぞう氏とのやりとりもまんま、江戸期の女と男みたいで。江戸は政治的・歴史的に女性の数が男性よりずっと少なかったというのは有名な話だったけど、こうまで女性上位社会だったとは…どっかで言及されてたけどほんと、文化が隆盛するのは平和な時期、そんでもって女性が経済力持つと相対的に男は情けなくなるんだな・「粋」の定義とか、すごくしっくりきた。そうそう面白さ・無駄の追求だよね!実利に結びつかなくてもそれでいいんだよね!江戸は省略・敗北・マイナスの文化、上方は豪奢・華美・プラスの文化なんてのもおもろかった。あたしは典型的な江戸型だな…お江戸でござる大好きだった…杉浦さんのご冥福をお祈りします…

『アイヌ歳時記』 萱野茂
去年くらいからアイヌのことが気になってて…人類学の講義は受けたけど基本的なことがわかってないので、まずは入門書から。著者がアイヌの人だというだけあって、体験的な記述が書かれてて面白かった。頭をぶつけたらぶつけた場所にも「痛いだろう」と声をかける、あららこれあたし小さい頃によくやってた…自分がこれだけ痛いんだから、ぶつけたところもさぞ、痛かろうと…ものには全て魂があると信じてたからね、あたし、アイヌの素質あったのかしら・とか。植物や動物にあたりかまわず声をかけてひとり、笑ってることなんてしょっちゅうだったけど他の人はそうしてないからいつのまにかやめてしまった、けどそういうのが当たり前のところもあったんだなあ…懐かしくて嬉しい気分。それにしてもアイヌは鮭が主食だったのに、本土の日本民族が鮭猟を禁じてしまったくだりは読んでて泣けた。主食禁止ってなんだそれ。歴史ってのは一概に一方の立場からは言えない、けどとにかく日本人がアイヌを虐げた話は今までにもいろいろ、聞いてるし読んでる、それが今更ものすごく辛い。辛いなあ。

アイヌの本は他にもいろいろ。『太陽』シリーズのアイヌ本は写真が豊富で見ごたえあるー。

あと中国古典は相変わらずぱらぱらめくってるし(秋灯新話他)大江も読んでるし(正直重い)中井英夫の薔薇シリーズ(イイ!)、それと有栖川有栖なんかを少し。この人のは正統派だし素直だし短編なので読みやすいよね。けど、よーし解いてやるぜ!って思わせるような謎では、あんまり、ないような…まともすぎるんだよなあ、もうちっとこう、ビビッと感性に訴えるようなやつが読みたい。漫画の「少年探偵コナン」みたい、きれいな謎できれいな落ちで、そこが好きって言う人も要るかもしれないけど、私には物足りないかも。まあまだ全然読みこんでないから何にもいえない。

 

12/08
『黒の回廊』 ヨーロッパ一周したことある人はきっともっと楽しめる。しかし当時はツアーで60万とかしたのかー。HISの航空券価格破壊は偉大だったんだ… 清張のは、緻密に書き込んでるから惑わされるけど実は筋は単純なものが多い・と 思った・・・

『共犯者』 短編集。この中なら「潜在光景」かなー。愛人の連れ子、6歳かそこらの子に「殺される!」って恐怖覚えて逆に、殺しちゃうんだけど警察はどうしても分かってくれない。「そんなちいちゃな子が大人を殺すわけが無い」っていうの、でも主人公には「覚え」があったのね、つまり主人公は5・6歳のときに母の愛人を殺したことがあって今度は自分が殺される番だと怯えていたって言うオチ。これは台詞の使い方とか秀逸だった。あと読んでて和んだのは「青春の彷徨」。心中しようと思った男女が白骨死体を見てやっぱやめる、とかいう・明るい終わり方だった。

12/17
『時間の習俗』 『点と線』の刑事コンビが出てきた。俳句や民俗行事を小道具に使ってる辺りはさすが清張!しかしゲイと女装した男が犯人って言う発想はやっぱりこの世代には新しかったのであろうか、わりと序盤で分かってしまったあたしもどうかと思うが。あとフィルムのトリックはデジカメ全盛の現代では通用しねえぜ…カラーフィルム普及しはじめたころの話じゃあな…ああ九州行きたい。

12/31
『文豪』 明治期の文豪評伝。清張は取材が綿密で書き込みも丁寧なのでこういう研究スタイルの文章向きだと思っていたけれどやっぱり面白かった。坪内逍遥と妻のやるせねえ生活とか尾崎紅葉と泉鏡花の見えざる確執も興味深かったけど斉藤緑雨は題材にした時点でもはや脱帽。俄然緑雨読みたくなってきたもん。引用されてる部分だけでこんだけ爆笑できるなんて、しかもあの文語体で!面白い文章は普遍性を持ってるんだなあ、文章に普遍性を求めてもいいんだなあ。「小説評註」読みたい。

『蒼い点描』 女流作家の代作者をめぐる事件を男女の編集者が追う話。箱根が舞台なのだけどあたしはあいにく箱根に行った事無いんだな。獅子文六の『箱根山』なら読んだけど…。男女ふたりを謎とき役に配置して、しかも女の視点で書いてたから読みやすかった。しかもラストがわかりやすいハッピーエンドで清張の作品にしては全くストレスなく読めた。しかしそのぶん、謎とかスリルとかそういうのは他の作品の方が優ってるかも。むずかしいな。でも、このちょっと昔の心理描写ってキライじゃない。

2/6
『影の地帯』 清張お得意の「社会派」推理もの。カメラマンが主人公&探偵役なんだけど、犯人や共犯者の想像はかなりすぐわかるんだけど殺し方のトリックはもうひとつ、最後の詰めでぴんとこなかった。パラフィンにバラバラ死体を詰めるとこまでは想像がいったんだけどそれを鉋でけずって燃やすなんて猟奇的なことは思いつかなかった…清張にしてはなまなましかった… でもラストは爽やかで前向き。陰のあるヒロイン(ルパン三世のふじこちゃん+クラリスみたいな・悪の側だけど清楚!)を「飛行機の女」とか「霧の女」とか名づけちゃうセンスはともかく、主人公の一途さはよいー。

『わるいやつら(上)(下)』 主人公がすげえいやな男(医者)なのでまったくストレスなしに破滅していくのを観ていられた。「どのように美しくても、経済力のない女は虫のように無価値だ」って…美しくも無く経済力もないあたしはさしずめミジンコかなー;サスペンスものだけあって謎要素は薄かった… 悪にはなにかしら報復があるのが清張のいいところ。

『西郷札』 「さいごうさつ」と読む。推理モノじゃなく時代小説の短編集。西郷札はひらたくゆえば恋の話なんだけど、西南戦争当時薩軍が軍票乱発してたこととか岩崎弥太郎(三菱つくったひと)が軍票の買占めからのしあがった話しなんかはかなり、へええーって思った。教養だ!

あと、「梟示抄」読んで大久保卿がどんだけイヤなやつだったかよくわかった。江藤にライバル心燃やしてたとはいえ問答無用で死刑においやって「ざまあみさらせ」(醜態笑止)「全部終わってスカッとした」(都合よく相すみ大安心)って…まさか後世自分の日記を逐一読まれるなんて思ってなかったんだろな。

「くるま宿」はなんか時代劇の定番なんだけどやっぱりおもしろかった。病がちな娘を連れた四十路がらみの男が車宿にやってきて、車引きとしてやとってもらうんだけど、或る日成り行きで賊をやっつけた剣の腕から身分が分かって、実は元ご家老衆で幕藩体制が崩れて落剥していたという…ゆかしくてけなげで芯が通ってて穏やかで強い・って私の好みど真ん中…女ではないですよ親父ですよ。

「戦国権謀」「二代の殉死」あたりは徳川あたりの話だけど、功はないけど晩年の家康が頼り切ったという本多父子とか家光とマブだった加賀守正盛とか、そのへん詳しくないので勉強になった!男色やら殉死やら、徳川も三代くらいまではまだ戦国の遺風が残っていたとは聞いたことがあったけど・清張のストイックな文体で書かれると想像の余地もないなあ・・

「恋情」はこの時代ならではのじれったい恋物語だった…

清張の時代小説の妙は人間心理の描写にあるなあ。すごいリアル… 清張のも、全部読んだらまとめて表にしようかな。


2/11
『渦』 視聴率調査への疑惑を解明しようとして、画家と劇団の男性二人女性一人が調査する…勉強にはなったけど正直読みづらかった。序盤は全然事件も起こらないし、思わせぶりな伏線も後半につながってないとこあるし何より謎解き部分がつまんないっていうか…探偵役を三人設置したのはいいけど、一番よくわかってない人物を読者の視点に置いてるのはどうなんだろう。推理の内容が二転三転していまいち、主筋を追えないかった。コレ二十年以上前の話だけど、視聴率調査の機械は都内から渦状に設置されてるって今でもそうなのかしら?

『眼の気流』 表題のものは、タクシードライバーと富豪の共犯関係を軸にしたもの。色盲って先天性のものだけでないんだと知った。妊娠中の女性も一時的色盲になるんだ… 短編集だったけど「たづたづし」(殺害した女性が記憶喪失になって生き延びてた)とか「影」(流行作家のゴーストライターになって才能を枯らす作家の話)とかのほうがよかった。推理短編というよりサスペンス。

『死の枝』 11の短編連作。推理ありサスペンスあり、で短編集としてはかなりテンポよいと思う。秀逸なのが多い。「偽狂人の犯罪」は、犯罪を犯したあとに精神異常者のふりをして無罪になろうとする男の話。惜しい!実に惜しい!コレ女なら完遂してたんじゃないだろうか、自分の参考にしよう(縁起でもない)。「不法建築」トリックはこれ、『影の地帯』あたりで使われてたやつでねいか?確かにネタとして使いまわしたい気持ちはわかる… 推理でなく心理描写的な秀作としては「入り江の記憶」がダントツでよい。「潜在光景」に匹敵するもんがある、自分の父親が叔母を殺したように妻の妹を殺す話。清張の短編はどの話もラストがうまい。余韻があって大変よろし。

2/22
『聖獣配列(上)(下)』 スイス銀行と政界と米大統領の謎。主人公の可南子、あたまがよくて魅力的なのにアサハカなんだよ…詰めが甘いんだよ…清張の作品の登場人物ってあまり主人公に感情移入できないような書き方になってる場合が多い気がするんだけど可南子はわりと好きだったのでラストは衝撃だった。うーん後半の展開速すぎないか?あと視点もばらけててわかりにくいような。女のロマンだとか愛だとか夢だとか信頼をことごとくふみにじる話だ。スイス銀行の仕組みについて勉強になった。ほんとよく取材してるなあこの人…

『眼の壁』 会社員が探偵役ってわりに珍しいパターン・・・?上司が手形詐欺に遭って自殺した仇を討とうと事件を探り始めるが、そこには政界の資金集めの組織悪が…!面白い。エンタメ要素・謎要素もかなり充実してて、え…っまさかこいつが!?みたいなどんでん返しとか美女の影とか。主人公がまた純情でよい。あと山梨・長野・浅間山とかそのへんが舞台になってて個人的に親しみがわいた。

『憎悪の依頼』 短編集。どれも佳品ばかりだけど「刑罰とは何か」「刑罰苦と犯罪人の精神苦とはかならずしも一致しない」「同一の刑でも社会的環境や性格などの違いにより苦痛は同一ではない」ということを扱った「女囚」が一番だった。これ鋭いよね、あたしも考えたことあったよ、余裕ある人間が殺人を犯すのと・貧困のあまり思いつめて殺人した人間が同じく死刑になったとして、その罰は真に平等・妥当なのか?とか。もしかして貧困に苦しむ人は死ぬことすら本望かもしれないよね。主人公の女囚は暴力を振るう父親を殺して何の罪悪感もなく満足している、しかしその家族は…っていう話。せつねえ。あと「壁の青草」。異色とゆーか…清張こういうの書くんだ…刑務所で服役する少年囚の日記独白で、なんかえろい。というかそのものずばり同性愛。ひらがな多様の日記形式で泣ける。先に出てった恋人から手紙がくるよう祈るとことか泣ける。

3/1
『歪んだ複写』 税務署の脱税事件隠蔽のための殺人事件。探偵役は新聞記者二人、なんだけど、アドバイザー的人物だった横井が殺されてしまった時点でわりと読めた、「カイダン」(階段)て比較的わかりやすかったけどなあ…まああの税務署長夫婦の描写も意図的に穏やかなものだったからなあ…それにしても税務署と企業の結びつきについては清張の訴えというか、かなり実感がこもっててそれだけでも面白かった。税務署の内幕もよくわかったし…善良な小市民は損をするようにできている、と つくづく思う。解説を小松伸六さんが書いていて、「ある小官僚の抹殺」に注目してたけど、あたしもこれを思い浮かべていたよー。清張の短編には、長編に繋がるトリックやアイデアが詰まってるから清張ファンはまず読んだほうがいい。

『喪失の儀礼』 社会派社会派といわれる清張の、出だしも病院と製薬会社の不正についての思わせぶりなかかわりから始まるものだから、途中まですっかりそのまま巨悪が存在するのかと思っていた…先に短編集読んでたから、嫁と姑の不自然な仲の悪さに目をつけたらあとは簡単だった。清張の文章って、難解なものでないだけに慣れるとパターンが読めてくる…この長さ(中編)じゃあんまり無いタイプの動機付けだったかな。清張を読みなれてる人はとくにミスリードされやすそう、と思った。

3/8
『渡された場面』  文芸同人誌の盗作されたシーンからとある冤罪事件の手がかりを見つける、というもの。盗作した小説家自身の別件の犯罪から追っていて、全く別の事件がラストで結びつくところをわざと淡々と調書体で記しているのが圧巻。よみにくいけど。7ページにわたってカタカナってよみにくいよ…

『駅路』 短編集。この短編欲しいとすら思った!勉強になる~。邪馬台国論争を求めて古代の道行きを再現しようとして水死した人の「陸行水行」なんてそのまんま上代日本史のまとめだし、「万葉翡翠」も万葉考古学なんてほんとにあるかどうか知らんけどヒスイ伝説をめぐって糸魚川探索、勉強になるしあたし自身糸魚川でヒスイ探したことあるから地理的にも興味深かった・タイトルの「駅路」の、愛人と家出した定年退職の男の悲哀はしかしわたしにはまだわかんない…「誤差」で、愛人と旅行中、愛人が殺されて進退窮まって自殺する男の気持ちのほうがまだしもよくわかった。この話、短いけどよくまとまってていいと思う。
「薄化粧の男」は妻と愛人が共謀して男を殺す話・長編にもこういった、〔一見仲が悪い人物同士の共犯〕っていうネタ応用されてるよね。

『男達の晩節』 以前読んだ短編も含まれてた、定年男もしくはサラリーマンの悲哀メインで、読む人が読めばぐっとくるんだろうけど・厄介者扱いの老人の反抗心とか・幸いなことにまだよくわからない。
「遺墨」 妻帯者である教授と速記嬢の恋。財産分与として手書きの墨書を与えるけど男は死なず・女とのことが暴露して、女を棄てる。遺墨もたいした価値ではなく・それは男の価値がその程度だからだよねきっと。美しいままで終わらせず、修羅場までもってくあたり清張ぽい。リアルはこうでなくちゃねえ、と思いつつやっぱり悲しい。
「背広服の変死者」 自殺男の遺書風。定年を恐れていた男。「私がはじめてこういう隠微な悩みから解放されたのは、皮肉にも金銭的に全く生きる存在をゆるされなくなってからであった」「しかし、金銭や酒や女は、私の自殺の原因では決してなく、永いこと宿題として考えていた死への助力者であった」
死は宿題、だよね。あたしもそう思う。自分をそういう状況にもっていけるかどうか…それが問題。

3/22
『夜光の階段 上下』 美容師が女を利用してのしあがっていく話。ちょっと前にはやったカリスマ美容師の走りりかなー、売れるのって大変なのね…。しかし犯人である主人公が基本的に知性と無縁なので、いまいちリアリティが…利用した女全て同じ手口で殺してたらそりゃ、足もつくだろうよ。ラスト、司法の手にゆだねられず終わってるのは少し意外だったけど・『わるいやつら』も女を食い物にする男の話だったがあっちの犯人のほうがまだしも、終わり方納得いく。この話全体通して、「検察と警察」の関係や検察の捜査権の話が横たわっていてそれは非常に興味深かった。冤罪ってこわい…一度、真実・事実とされてしまったことを覆すのは、たとえ証拠が揃ってたとしても大変なんだな…身に覚えの無い自白だけはしちゃいけない。

『水の肌』 「指」女同士の愛の秘密を旦那に知られないよう殺人に走る女。犬がかわいそうだ…。「水の肌」は、犯人である男の利己主義的で冷たい人間性がきちんと書き込まれていただけにラストの静かな狂気が恐ろしい。つうか凄い本当に狂ってる。「小説三億円事件」どこまで事実に基づいてるのかわかんないけど、地元で起こった事件だから興味深く読めた。土地勘あるしね。尾崎ほつきさんが解説で、この事件に投入された捜査費用が被害額の三倍に達しているわりに捜査が杜撰であったことを指摘した清張の達観を賞賛してるけどさもありなん、この事実が一番面白かった。

『失踪』 この中なら「二冊の同じ本」だな。違う書き込みの同じ本の謎。持ち主が殺人を犯したのをかばって獄に入った男を養子に迎えたが、その男は財産を奪おうと画策し…という秘密を二冊の本から推理していく話だけど、私も古本屋でよく書き込みのある本を飼うし、その書き込みに思いがけない物語を感じたりもするので面白かった。あと「詩と電話」は、必ずスクープを取ってくる男のニュースソースは…という話だけど・からくりがひどいなあと思った。からくりというか、そのからくりを知った主人公の行動が。。

『佐渡流人行』 相変わらず勉強になる歴史短編。表題の「佐渡流人行」は確かに異色の佳品。妻の不品行を疑った男が、立場を利用して相手の男をいじめぬいて殺そうとする間際、真実が…という話だけどラストの寒々しさがなんともいえない。
「戦国謀略」は尼子を討つまでの毛利元就の智謀ぶりについて。といえば聞こえはいいけど・やってることは陰湿そのものだなー。こええな戦国。冒頭の家訓「ぼくは何の才能もなくってえ、運が良かっただけなんですう」っていう言葉(意訳)が空々しい。
「ひとりの武将」佐々成政と前田利家の確執について。二人が同い年だとはしらなんだ。成政は無為に生き延びて九州の田舎に流されて一揆の責めで切腹するわけで、武将としてつまらない死を迎えたとは思う、けど「何時ごろか知らないが、もっと早くこの瞬間があったように」思ったというのはこころうたれた。死ぬべき時を弁えられたらどんなにかいいだろう。
「陰謀将軍」信長と、足利最後の将軍義昭。義昭が無能すぎておもしろい。自分を利用した信長を一途に恨んで、でも自分では何も出来ないから他力本願で他の武将を動かそうとするなんてまるで女の手管ではないですか。
「流人騒ぎ」は島流しから足抜けしようとする罪人の話だけど・ちゃんとストーリーにメリハリあって悪は懲らしめられてるあたり読ませる。とりあえず坊主がこええ。
「恐妻の棺」 愛人宅で急死した男が生き返ってしまい、でも妻にはすでにそのことが知られてしまったのでしょうがないからもう一回切腹…みたいな。おいおい。でも最後は救いを持たせる。ふふ。

『砂漠の塩』
女が夫を残して独りでヨーロッパツアーへ参加し、途中エジプトで不倫相手の男と合流する。二人とも配偶者を棄て心中のみちゆきへ。しかし不倫してても抱きあったことはない、とかそれってすごいなあ、時代かなあ。女の(結果的な強かさ)に比べて男が脆弱すぎてわらった。バスで風邪ひく、とか…あたしも経験あるけど砂漠の夜は思い切り温度下がるから、窓の傍に座ると命取りなんだよね。そんで昼間は地獄のような暑さだもんね。懐かしかった。それはともかく泰子の夫が哀れで哀れで…善人というだけであんなめに遭わねばならないのなら辛すぎる。そんで心中の結果も、いや、これけっこう恐ろしいんですが…。最後のところは地方の発掘体の文章で淡々と締めくくられてて清張らしいなあと思った。まったく何も謎はないけどこういった微妙な心理を描くのはさすがうまい…かな、でもこういう作風のものなら清張でなくていいかな・とか…

『黒地の絵』 最後あっけなかったな。岸田劉生モデル?

『黒の福音』 スチュワーデス殺しの実際にあった事件を基に書いたから?清張にしては犯罪者が全く滅せられないって、珍しい・神父腐ってる。読んでてむかむかしたー!このむかむかを伝えたかったんならそれはそれでありかとも思い直した。結局は現実批判。

短編集 『二階』 病気のだんなと妻と看護婦。看護婦とだんなが心中して妻が遺書を偽造してだんなと自分を心中したように見せるとゆう三角関係。心理が淡々としてて恐ろしくてよい。

『隠花平原』 殺された男の義弟の画家が謎解き役。銀行融資と宗教団体の不正。主人公が画家なので画家の生態がよくわかった(笑)。ならではの色彩を用いたトリックもあって面白い。下巻で被害者の出生の秘密に迫るくだり、もう少しわかりやすい伏線を張って欲しかった。いや、ある意味とてもわかりやすいんだけど容易に想像できすぎてしまって…清張だからも少し緻密な話つくるかとかんぐったあたしの負け。ラストの真相に迫るくだりもスピード感あるし犯人も意外なんだけど動機とか、清張にしては珍しく不条理で文学的で考え付かなかった。大体あの血縁関係入り乱れすぎでない?

6/
『迷走地図』 章がやたらこまかに分かれてて、登場人もそのつど異なるのではじめは主人公が誰かよくわからなかった、要は永田町の生態ドキュメント。議員がいかにダメダメかよくわかった…金と色。
民間企業の社長はなぜ贅沢できるか=政治献金。描写は丁寧だけど人死には出ないし、メリハリないし、読むのが辛かったわ・・・

『黒い画集』 短編集。週刊朝日に連載されたもので全体的に佳作多し。

「遭難」 銀行員三人が鹿島槍で遭難、ひとりが凍死する。リーダーの江田のところに凍死した男の姉が訪ねてきて、従兄弟である槙田とともに再び死亡現場へゆくことになるが・・・
遭難事故に見せかけた殺人事件の話だけど、確かに天気を事前にチェックしてなかったのかという点は素人のあたしでもツッコミが出るぞ。でも山のことを詳しく取材しているし、地図の範囲によって載っている山が異なるとか、地味にリアリティある。凍死の幻覚描写などもスリル満点。珍しく犯人が勝利する終わり方で読ませる。
「証言」 浮気がばれないよう、偽証する男。淡々としてあっさりオチがつく。

「天城越え」 35年前の殺人を、「私」の回想とともにノスタルジックに書いてる。動機の感傷的な部分もよい。

「寒流」 銀行内のハバツ争い、女をめぐり上司と対立して、暖流に乗れず寒流に入ってしまった男の悲哀。これほんと主人公かわいそうなんだけど、最後の最後にちゃんと報いがありそう…!なとこで終わってて、こういう寸止めというか、さんざんじらしておいてあとはご想像のままにというか、そういうつくりって清張すきだなーと。まあ裁きの結果よりも過程のほうが確かにドラマチックだけどさ・民が苛められてるシーンが延々続いて、そこに黄門さまの影が…!で終わる水戸黄門みたいなんだ。やだなそれ。

「凶器」 いやこれは一発でわかった。このネタ好きなんだ、「凶器を食っちまう」話。容疑者の女がおしるこ作ってた時点でもうわかった。しかし清張が書くとこんなに地味に渋い話になるのか・・・

「紐」 登戸で男性の絞殺死体が発見される。首に巻きついた紐は丁寧にまいてあった…
家族の殺人は思いやりが出るもの、という話は納得。借金返済のため、保険金めあての自殺かー。「詳しすぎるアリバイ」ネタなど細かいとこも含めて読み応えあり。これ読んでるときちょうど登戸を電車で通貨して感慨深かった。

「坂道の家」 ホステスを愛人にした小間物屋の主人の転落と殺人。まあ死ぬのは親父の方だと思っていたしミステリというよりは犯罪実録ぽい。

7・8月
『半生の記』 私の人生は私小説は向かない、と言った清張のことばがよくわかった。ほんとおもしろくもない半生だわ。いうなればプロレタリア、読んでて暗くなりそう、いくつか自伝的な小説は読んだけど、それよりも切実だった。両親に、周囲に縛られ続けた人生。貧困で進学できずに版下となり、独学で本を読んだ、そのうち読む暇もなくなって・徴兵生活が唯一の自立で、その後故郷に帰る足取りの重さとか。
あたしだったら全部捨てて逃げちゃうけどね、戦後の混乱に乗じて新しい人生…できたらいいなあ、よかったなあっていう思いが砂の器だったのかな?五十くらいまで砂のような人生をかみ締めてたこの人の小説がなぜあんなに重く、リアリティがあるのかよくわかった。文壇にもなじめず。結局は純文ではなくエンターテイメントだった、と自分を振り返ってるのもなんだか痛い。

『火の路』上・下
奈良の情景から始まる。歴史学を専攻する大学の助手、高須通子は、偶然知り合った雑誌カメラマンの坂根と共にシンナー遊びの青年に刺された中年の男、海津を助ける。海津はかつて歴史学者であり、通子に学問上の重要な示唆を与え、通子は奈良文化のルーツを探るためイランへと飛ぶ。一方坂根は海津と京都の富家の夫人との関係を探り出し、海津が学会を追われた「女性問題」を明らかにした。その頃、国立博物館の収蔵品に偽造があることが発覚し、通子は異端視覚悟で論文を提出する…

取材が綿密!面白いが、途中小説というより論文を読んで居るような気分になって正直辛かった…学界的にはどういう反響だったんだろう、かなり論理的で穿ってたけど…
「益田石船は拝火教の壇であった」、「ゾロアスター教は奈良時代に日本に入り、斉明天皇はこれを信仰していた」はさすがにとっぴなように思える…
でもソグドは私も高校の頃憧れたし、ハオマやアサシンの話、幻術使いの話も面白い。世界史勉強しなおしたくなった!沈黙の塔の話とか…
ちゃんと謎の解明と海津の殺人事件も絡めて、ミステリーのサービスも欠かしてない、さすが。
それともうひとつ、1971年以前のイランの描写が非常に興味深かった。まだホメイニが革命起こしてないからアメリカナイズされてんの。

*Hyper Ezyptcentic diffusionist E・スミス、J・ペリーが歴史減少を何事もエジプト起源に結びつけたことを風刺。

『落差』
教科書会社と社会科教授の癒着テーマ。徳武敏夫『日本の教科書』からの引用など、なかなか面白い。教科書をめぐるリベートやらハバツの問題は大昔からあったんだなー。主人公の島地教授が『わるいやつら』の悪徳医師をもっとたち悪くしたようなやつで、むなくそがわるくなる。かつてのライバルの妻景子を手に入れ・捨てるための画策や、親友の妻明子を奪う段取りとか。そのくせ研究の日和見だけは抜群で事なかれの金儲け主義とか。高知県を舞台にした塩の道の話は面白かったけど、こういうやつは最後きっと制裁されるだろうと思ってたら普通に、自分が関西まで追いやった景子に刺されただけで終わったので不満。

『聞かなかった場所』
象徴に勤める男の出張中、妻が急死した。しかしそれは聞いたことも無い場所だった・
化粧品店に入ってなくなったという妻、その化粧品店は流行ってる様子もないのにのちに大きなホテルになる。
夫は探偵に調査を頼み、妻が浮気しており、その相手は化粧品店の裏の家の持ち主であったとつきとめ
その男をはずみで殺してしまう。なんとか現場に近づきたくない、と小細工して結局はそのことに足元をすくわれる主人公が哀れ。
俳句、出先の急死なんかはくりかえし扱ってる清張の得意なネタみたいなものかな。

『軍師の境遇』
不遇の軍師、黒田官兵衛(如水)について。歴史物はさすがに乾いたなかにも重厚さを感じる、
うまい。大国にはさまれた小国の懊悩、気の小さい小寺政職と荒木の姦計にはまって足萎えになってしまうくだりは凄まじかった。
一番好感を持ったのはやっぱり竹中半平太かな、病弱の軍師って清廉さがなんとも。でも一番描写が巧いのは秀吉だった、人間的魅力がよくわかる。そしてそんな秀吉の軍師として後に秀吉にすら恐れを抱かれる、
これは優秀な人間の宿命なのかな…馬鹿でよかったー。
「およそ質問ほどその人の実力を率直にみせるものはない」
…いつもいつも馬鹿な質問しかできなかったゼミのことを思い出して暗くなった。清張的確だ。

「逃亡者」
細川忠興と於玉(ガラシャ)。忠興ってサディストだったのか…食卓に生首置いたり侍女の顔を引き裂いたり・
でも於玉だけは愛していた、歪んだ愛憎…
そして戦国時代の鉄砲の名手、小人稲富直家(伊賀・一夢とも)のことは初めて知った。針の先にしらみをさして、しらみだけ撃ったとかなにそのゴルゴっぽさ。

「板元画譜」
時代は下って江戸、板元蔦屋から写楽の出現と瞬く間の没落。そこには絵師の嫉妬が…
山東京伝と馬琴の師匠と弟子の因縁も絡めて、当時の事情がよくわかる。絵ってもうかったんだなー 今のベストセラーみたようなもんか。



「火神被殺」 日本神話、イザナミの火神産みと出雲のバラバラ殺人。古代史マニアの推理。
神話学の話が面白い。確かに日本の古代神話には局部描写が多い。
殺されていたのは兄、妹との兄妹相姦。

「葡萄唐草文様の刺繍」ブリュッセルで妻に買ったテーブルクロスをひそかに愛人にも買い与えていたら、その愛人が殺された―テーブルクロスから自分が疑われるのではないかと怯える主人公。本当の犯罪に手を染めた人間ではないからこその瑣末な脅え。
謎の人物=妻だったというのは少し以外、浮気を承知していた妻が殺される直前の被害者を訪ねていた落ち。

「神の里事件」神道の流れを汲む新興宗教「豊道教」を取材していた友人と、宗教の教務総統の男が不審な死を遂げ、引地は兵庫に調査に来る。バスガールの若い女は女教祖の妹であること。
スピード感ある作品でよみやすい。謎解きもオーソドクスだけどおもしろい。凶器の槍=立て札。

「恩誼の紐」 どうしようもない父親のために、辰太は他人の家で働くババやんの家に時折預けられる。ババやんをこきつかうその家の女主人がある日、殺され……
9歳で殺人を犯した辰太を疑うものは祖母以外に無かった。「お前を守ってやるけに。もう悪いことはするな」と言い残し死ぬババやん。数十年後、妻を殺した辰太はババやんに「守ってくれ」と祈る。

9/30
『失踪の果て』
「失踪の果て」教授の首吊り死体が発見された。自殺の原因は無いが、殺される要因もない。
自殺として処理されるが、後にその事件を担当した警部補が、警視が退職したことから人事異動があって警部に昇進する。→講師が助教授になりたくて、教授を殺した。階段状の昇進。
首吊りの索引痕=睡眠薬を飲ませてから吊ったので、自殺に見えるというトリック。面白い。

「額と歯」 死体の特徴から、犯人を追い詰めていく。新聞記者の粘り。

「やさしい地方」押し出しの強さと女あしらいのうまさで政治家になった男が、関係した女とその子を地方の産院で産ませて殺す。その男と以前付き合っていた女がその産院を訪ね、男の犯罪を感じ取り、投書。
こういう男は許せないと思う女の心理すら客観的に描かれていた・ううむ。

「繁盛するメス」戦時中衛生兵だった男が、モグリの医者になって繁盛する。そこに戦時の上官がやってきて脅迫、手術中の事故を装い殺すが、その死体を引き取りに来た男も衛生兵で、手術跡を見て不審に思い……主人公が哀れすぎる。

「春田氏の講演」 講演会に必ずやって来る美女とその弟に恋をするが、実は彼らは盗賊でカモフラージュのために春田氏に近づいた。

『高校殺人事件』
なんじゃこのタイトル、と思ったのでぺらっとめくったら主人公が高校生で、清張が高校生書くんか!うわ見もの!って思って借りた。実際かなり面白かった。
物語は、武蔵野の面影残るある街で、高校仲良しメンバーの一人 詩人の「ノッポ」が、謎の笛の音を追って死体となって沼に浮ぶ。メンバーは犯人探しのため、その沼の周辺を探索するが……っていう。
まず、主人公の高校生の一人称が「わたし」で、途中まで絶対女だと思ってたよ。あと語り口が枯れていすぎる。きゃぴきゃぴっとしてない。『高校コース』に連載されてたそうだけどどうなんこれ……そしてさすが清張、肝心な謎に近くなるとするっと逸らして、追求させない。そんな素人っぽさが高校生をリアルに感じさせる。
先生の失踪、防空壕を訪ねてきた謎の男といきなりの郷土資料館の建設、男の自殺、怪しい寺の住職と僧……などの謎を解くのはラスト近辺にいきなり現われた主人公の従姉妹の女の子で、いやこういう展開キライじゃないけど主人公立場なし。
武蔵野の「むらさき」のエピソードはよかったな。多分深大寺近くを想定してると思われる。
あとポー「大鴉」へのオマージュ。
清張、っていうかノッポの詩はちょっとどうかと。笛の音=喉をかききられた断末魔の音というのは不気味でよいけど。

『ガラスの城』
一流企業で起きた殺人事件をめぐり、車内で働くオールドミスの女性ふたりの手記から成る推理。
前半と後半で主人公が異なるが、どっちも魅力に乏しい女性なので読んでてわりと辛かった。
犯人については前半部を丁寧に読み込めばわかる。
それにしても清張の女性描写……解説には、清張が女性を描いた小説でも出色の出来とかなんとか書いてたが確かにリアル、そのぶん残酷……つうかぶっちゃけ今の時代には合わないぞこんな描写。

『黒い樹海』
仲良し姉妹の妹が主人公。
新聞社に勤める姉が旅先で事故死した。しかし、それは姉の予定していた仙台ではなく浜松だった。妹は姉の死に疑問を抱き、自ら新聞社に勤め、真相を探る……
主人公の祥子さんが賢くてすてき。とても美しい日本語を使う。素で「お姉さま」って……・複数犯かなと思っていたし、あからさまに犯人のb評者だけ突出してたので複数の容疑者がいても割り出しやすかった。ラストもほのぼのしてて好きだ。
新聞社の体質(遺族を勤めさせる)は、おもしろかったな。

清張の推理もので、事件の推理や探偵を本職としてない人間が出てくると、警察みたいに強引で綿密な捜査ができなくていつも少し歯がゆくなる。それがリアリティ。

10月~

『花氷』 黒い~系、野心家の男が政府払い下げの土地を入手するため昔の女を強引に従わせて、女の愛人である銀行家にわたりをつける一方、自分の愛人に政治家を篭絡させ……
主人公がすげえ嫌なタイプなので転落してゆくのを笑ってみていられた。ざまあみろー。
最後、自分の妻と愛人と昔の女全員に捨てられるくだりはこきみよい。

『生けるパスカル』 ピランデルロ「死せるパスカル」オマージュ
悪妻の嫉妬に苦しめられる画家が、死せるパスカル(環境に苦しむ男パスカルが、失踪中に死んだものと思われて自由に生きようとするが果たせずついに家に帰る、が 帰ったところで妻が再婚していてようやく自由を得る)のあらすじに思いついて妻と偽装心中、自分だけ生き残るが、発見されるまでの間新作の絵を描いて気を紛らわせていたことにより発覚。

わりとすき。ピランデルロ
絵に詳しそうだなー。

「六畳の生活」
七十過ぎの元軍医の老人が世話係の中年女に恋するが、その女は夫と睡眠薬心中する。
その後、老人は息子が看護婦と出来ていることを発見。
毒を盛ったのは嫁か、看護婦か・「どちらにしても帰るのは鬼の住処」

2008/05

「危険な斜面」 
会長の妾になっていた昔の恋人を操って出世を狙う男は、ジャマになった女を殺す。女の元恋人の青年が探偵役。男の会社のある東京と死体の見つかった山口のアリバイは飛行機ですぐ解決。+自白させるためのトリック(写真に女の紫色の服が映っているという嘘)

「巻頭句の女」 俳句雑誌常連の女の死亡の謎。保険金詐欺事件。

「失敗」
刑事二人組みで、妻と子供に会いに来るだろうと犯罪を犯した男の家にとまりで張り込む。その後犯人は自殺し、遺書には妻に「最後に会えてよかった」という内容が。交代の不寝番で見張っていたはずだが、どうやって会ったのか・
→トリックではなく心理劇。若い刑事と犯人の妻の交情。

「拐帯行」
会社の金を横領して恋人と逃避行した森村は、電車の中で上品な中年夫婦と出会う。旅先でも偶然同じ場所を巡り・・後半は森村の自白。淡々と質疑応答だけ繰り返される。「彼らは君たちよりもっと大きな苦労を持っていたのだ」はるかに大金の横領犯人として情死していた。
・・「刑事は執行猶予を論告しようとしていた」……最後の一文でだいぶ救われた。

「虚線の下絵」
芸術をあきらめ肖像画描きとして生きる画家とその妻。あるとき、画家は妻がその肉体を使い客を集めていることに気づくがどうにもできない。下絵に妻と男の醜悪な下絵を描く。妻はそれを見て出奔する。画家の親友が売れっ子の絵描き。やりきれねえ話。画家が、ではなく女が(女は画家のためにやってるのに画家に責められたら出てくしかねえと思う、ヒモが女を責めるようなもんだ)

「与えられた生」
病院を紹介し作家の命を救った女編集者、彼女との不倫がついには作家を自殺へ追いやる。
まさに与えられた生。しかし作家は都合がよすぎる。

「通過する客」
冒頭の妻と夫の性格の不一致に関する洞察はおもろい。「教養のある妻は逃避先を趣味に求める」。波津子は歯科医の夫と再婚したが、夫の仕事には無関心。夫は波津子を愛しているが、波津子はあきらめの境地に近い。彼女はあるとき趣味やっている英語通訳の仕事でアメリカからの客を請け負う……
推理要素なし・無愛想な女客と、波津子の「夫に対する態度」。
女客が騙されたオチ。

『球形の荒野」 上下
奈良の寺にあった米フツの書に酷似する記帳から、十七年前に死んだはずの人間の生存。
新聞記者添田は、戦時中にスイスでなくなったという恋人の野上久美子の父にまつわる謎にせまるが、そこに殺人事件がからんでくる。一方、久美子は自分がモデルをつとめたデッサンを盗まれ京都へと誘い出されるが、そこでは見知らぬフランス人夫妻に出会っただけであった。
新聞社の先輩、特派員だった滝と外務省の村尾はよそよそしく彼の生存を否定していたが、実は久美子の父は、日本の未来のために日本を敗戦に持ち込んだ人物として軍国主義団体に狙われていた。添田は久美子を父に会わせようと横浜へ行く。
観音崎灯台での親子の対面でエンド。彼にとってはどこに行っても荒野なのだ、国籍を捨てたその時から=球形の荒野 ね。なる!

『告訴せず』
政治資金三千万を持ち逃げした男の逃避行。
裏金だから届けられない、ばれる心配のない犯罪でもうけた金で、小豆相場に手を出す……
フトマニの占いを信じる主人公。占いどおりに金儲けし、愛人をつくってラブホテル事業に手をだす。投資のところがものすごい順調だったが「清張だから絶対何か罠がある」と思って読んでいた。なかなかストレスだった。しかも予想通りちゃんと罠があるしー。小豆相場ってショウズって発音するんだな、勉強になった!

06
『花実の無い森』
自家用車をもつ青年、梅木がふつりあいなカップルを車に乗せる。車の中には万葉の相聞歌が掘り込まれた銀のペンダントが落ちていた。ミステリアスな女性に恋をした梅木は、わずかなてがかりをもとに彼女を探すがやがて男の方が死体となって見つかる。
殺人事件と華族。梅木の執念すげえとしか言いようが無い、ふつーの会社員が金も時間も犠牲にしてあそこまでできないぜ。そしてストーリーもちょいとぞんざい・まあ推理として読まなければちょうどよい。どうも肝心の女に魅力を感じなかった、残念。

『日光中宮祀事件』
短編集。
表題の「日光中宮祀~」は推理というよりドキュメンタリーに近いような。一家心中とされた事件の調査しなおしで、新たな犯人像が浮かび上がる。終戦直後の捜査のずさんさ。冒頭、半七捕物長の小兎に触れられてておおっと思った。

他に阿蘇の噴火口の投身自殺をテーマに、男の身勝手さを書いた「情死傍観」、妻の母の顔を嫌いぬき殺害した「部分」(なさそうでありそうな理由付け、殺したのが実は・っていうオチの部分含め短編だけど佳作)、
九州城下町の佐平窟にまつわる話をもとに衛生兵の体験をだぶらせた「厭戦」(朝鮮の役・捕虜になったことを非難されたとしても故郷へ帰りたかった兵隊のあわれ)、
女婿殺しのために旅館を居ぬきで買い完全犯罪をもくろんだ「小さな旅館」(上着を脱いで入水するか否か・そんなに警察って有能か?という若干の疑問)など。


2009

『紅い白描』 
商業美術を学びデザイン事務所に勤めた葉子は、師匠である葛山の絵と人間性の解離に疑問を持つ。やがて、素晴らしい美術の才能を持つが障害児であるヒロシに出会い……。

推理も結末もぬるい気がする。誰も死なないのに殺意とか、解説に書いていいのかなー。
とはいえ、追い詰められた芸術家が逆ギレもせず、すべてを捨てる覚悟をするとか、意外だけど人間的で。葉子のロマンスがいまいちかな。あんた誰が好きなのさ!突然西原兄ラブになっててびっくりした、わたしとしては西原の妹のさつきの方が、より葉子にとって近しいように思ったが。もう無理に男とくっつかなくていいからさ、さつきでいいじゃん、さつきで(笑)

『不安な演奏』
映画評論家を志す雑誌記者、宮脇平助はカップルの盗聴テープを聴く悪癖を持っていたが、ある日、入手したテープに不穏な内容が録音されていた。明らかに死体処理を相談しているようなその内容に、宮脇は、知り合いの映画監督久間とともに事件を追及。新潟で水死体に出くわした久間、山梨の寺を追う宮脇。やがて、久間の薦めで調査には葉山という男が加わる。そこには政治家の選挙違反をめぐるつながりがあった。

全体すっきりしてないなあ。余計な登場人物が多い(久間さんはもうちょい活躍して欲しかった)。葉山の動機も通俗的すぎる、というか、途中からこいつが一番怪しかったので、いつ正体を表すかと思っていたら、ゆすり目的だったとは。なんか、いろんな意味ではぐらかされた感じ。この中途半端感もリアリティといえばいえるけどさ……。

『紅刷り江戸噂』 全体に江戸の風俗が細かく描写されているのがよい。

「七草粥」
七草粥にとりかぶとが混ざっており、それを食べた三家族が被害にあった。それは女将と手代の策で・・・…。七草粥のいわれ:唐土の鳥、鬼車鳥(ふくろうの一種?)が家々に災いをもたらすので、七草を食べて厄除けする

「虎」 虎を描くのが上手い腕のいい流れ絵師が、女をタネに甲府の大店に引き止められる。男は女が邪魔になり、女を殺して江戸へ逃げる。現場に落ちた張子の虎が証拠となる。あっさり。

「突風」 突風で船が転覆、引き上げられた上品な女将が逢引していたことをネタに二人の男が女をゆする。やがて片方の男が女の体も手に入れ、嫉妬の末に殺人事件が起きる。

「見世物師」 ふたつの見世物小屋が、見世物のめずらしさを競ううちに、殺人事件がおきる。
術 罪をのがれるため、身元をいつわり男色医者の弟子となるが……。

「役者絵」 妾と密通した男を油断させ、役者絵をも再現した部屋に運び入れて自白させる。 

『連環』 笠井は東京から九州に都落ちし、印刷会社に勤めるが、そんな生活に嫌気がさして主人の妻滋子を誘惑、主人をその愛人ごとガス中毒にみせかけて殺すと、滋子を騙して金を巻き上げ東京で好色文学の会社を立ち上げる。しかし、やがて滋子も邪魔になり……

主人公視点で話が進んでいくので、いやおうも無く犯人気分で逃げおおせたくなってしまうが、結局身勝手な犯人にお似合いの罠であっさり捕まる。謎解きというほどのこともなし。でてくるひとでてくるひと、酷すぎてリアルさに苦笑う。印刷所の描写は、清張自身の経験もあるんだろうな、すごく生き生きしたかんじだった。

『人間水域』
水墨画界で注目される二人の女性を巡る確執の物語。しかし既に第三の新しい星が現れていた…。ミステリーではなくて、人間観察記?

『蒼ざめた礼服』
洋傘会社に勤める片山は、たまたま手に入れた古雑誌を譲渡すると引き換えに、政界の暴露を主とする雑誌社に就職する。古雑誌の謎を追うなか、次々起こる殺人事件。そこには最新潜水艦をめぐるアメリカの武器会社や日本の政治的謀略が関わっていた。

ミステリー要素の要は、死体の腐敗速度を操るトリックだったかな。死んだと思われた人物が実は生きていた、それは誰でしょうっていう謎かけのほうは、わりと簡単だったように思う。なんせ登場人物限られてるし。
政治の裏側を描いた物語。最後のほうの種明かしでは、片山が今にも死ぬんじゃないかと心配で心配で。やっぱり一般人にあそこまで突っ込んだ推理は無理ってことで探偵役を交代させてたから、余計に。

 

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