[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
窓の外は石畳、行き交う人々はみな鈍く輝く金髪に高い鼻。とするとここは日本ではなく欧州のどこかだろうか?
突然通行人をなぎ倒し、彼方から暴れ馬が駆けて来る。馬は闘牛もかくやとばかりに猛り狂い、あれよあれよという間にカフェのガラス窓を突き破った。カフェは阿鼻叫喚に包まれ、わたしは逃げようとして足下のテーブルにつまづく。姉の悲鳴が聞こえ、体のあちこちに痛みが走る。ちくしょうやりやがった、怒りに燃えてわたしは夢中で荒れ狂う馬にしがみつき飛び乗る。馬はわたしを振り落とそうと跳ね回り、わたしは渾身の力を込めて咄嗟に馬の目に指を突っ込む。右、そして左。生暖かい眼球がぐしゃりと潰れる感触、馬は高くいななくとその場にどうと倒れ伏す。いきおい投げ出されたわたしの体を英雄さながらに群衆が歓呼の叫びを上げて担ぎ出す。あちこち傷つき血まみれのわたしは弱々しく右手を上げ、群衆に応えながら、早いところこのばかばかしい茶番が終わり病院のベッドでながながと寝そべることが出来たらよいが、と考える…
*
エキサイティングな夢だった。
相当激しく暴れたのか、起きたときベッド周りがすごいことになっていた。暴れ馬こええ。
海沿いの坂道が風景をななめに切り取る。石造りの道に太陽の光が反射して何もかもがきらきらと輝いて見える。水面に視線を移すと、波が寄せては返す岩の上に緑色の子供がにゅうと顔を出す。
死人の顔色みたい、とわたしは思う。思う側から子供たちが次々と海に身を踊らせる。
不意に、銀色の杭は彼らの骨なのだと気付く、波に洗われ白銀色に光るかぼそい骨……
額縁の向こう、あかるい死を眺めながらわたしは服を身に着けはじめる。下着のリボンがうまく結べない。
「手伝おうか」
「脱がせる方でしょ」
男の手をはたくと、わたしはそっと窓を閉めた。
*
眩しい夢だった。
こんなにちいさな子供を虐めるなんてひどい親も居るものだと思った、わたしは彼を自分の家に連れて行った。わたしは彼を護り、社会に……世界に導く役目を持っていた。
わたしたちはぎこちなく、しかし確実に、打ち解けていった。しばらくすると、彼は見違えるように穏やかになり、わたしの言うことを熱心にきくようになった。課題をひとつ終えるたびに、わたしは彼の頭を撫でてやる。すると彼は本当に幸福そうに微笑むのだ。
もうだいじょうぶだろうと彼を世間に送り出して二・三日したころ、わたしは庭の薔薇の手入れをしていた。ふいに薔薇の茂みが揺れ、草の陰から彼が現われた。腕に片目の子猫を抱いている。驚き、どうしたか問うと、うつむいて「ここがいい」とだけ言った。
彼は外界に馴染めず、誰の言うこともきかず、ついには再び逃げてきたのだった。
わたしは彼を救い、世界に導いてやるつもりだった、しかし世界は彼にとっては新たな監獄に過ぎず……ここだけが彼の生きられる場所なのだ、家でも社会でもない「何処でもない場所」、「避難所」が……
しかし果たしてそんな場所があることは幸福なのか?
一生避難所に篭もりきり 外界を遮断して生きることははたして幸福なのか??
不意に、片目の子猫がくちをきいた。
「結局ね、あんたは誰も救えないんだよ」
①紫色の闇の中、鋭角的な月を見た。
ぼうと浮かび上がる中国風の破風や欄干、中庭の植物は熱帯のものだった。とするとここは沖縄か台湾かはたまた越南あたりか、いずれにせよ南方中華文化圏になるのだろう。欠けた月を眺めわたしは考えていた、
なぜ ここに いるの だろうか?
羅紗のカーテンの向こう、すこやかに眠る顔ぶれには覚えがあった。中学、高校、大学と共に学んだ同級生、知人でこそあれ親しく話したこともない彼らとともにわたしはなぜここにいるのか?
「だって、修学旅行だもん」
傍らのRがこともなげに言った、そうか、修学旅行か。と、わたしは思った。そういわれればそんな気もしたが、楽しげに 明日はいよいよ帰る日だね とか 楽しかったね と語る彼女にうなずくほどの実感は無かった。
ただ
「お土産は何を買った?」
と 問われて初めて、ああそうだ土産を買わなければ、という焦燥感がこみあげてきた。
今この瞬間をわたしと分かち合えない人、わたしが自分よりも大切だと思っている人に、わたしが今ここに、あなたの居ないところに「居る/居た」のだという証を、贈るために。
わたしは中庭を抜け出し車に乗り込むと、夜半の道をバザールに向けて奔り出した。
②静かな市場だった。屋台の灯りが延々と続いている。
行き交う人々はみな無言で、物売りさえも眠たげな目を時折こちらに向けるだけだ。ここにあるのは果物や日用生活品の類で、記念になりそうな品物はとりたてて見つからなかった。
わたしはひそかに失望したが、そのうちに、どの屋台の軒先にも必ず小さなオブジェが吊り下げられていることに気づいた。
それは一見して根付のように見えたが、素材や色が異なる上に、猫や鳥などある種の動物や貝や花、果物など種々さまざまな形状をしていたので、わたしは最初、それらが同じ名前で呼ばれているのに気づかなかった。ただ共通しているのは、どこかしらに錐で開けたほどの小さな穴が開いていることだ。
これは何かとたずねたら、店の親父はひとこと
「ズズマモリ」
と答えた。
そしてわたしに、その小さな穴を覗いてみろと促したので、わたしは猫の形のズズマモリを取り上げた。
穴を通して透かし見た向こう、親父の顔は猫にすげかわっていたのでわたしは驚いて目を離した。親父は元通り、つまらなそうな顔をしていた。
ズズマモリを覗くと、生きて動くものが全て そのズズマモリの形状に見えるのだという。
猫なら猫に。花なら花に。
或いはそれは、万華鏡や3Dめがねのたぐいの視覚効果であったのかもわからない。しかしわたしはそのズズマモリがいたく気に入り、旅の思い出にぜひひとつ入手したいのだが・と、親父に頼みこんだ。
親父が意外にもこころよく譲ってくれたので、わたしはそのバザール中の店先にあるズズマモリを集めて回った、彼らは一様に言葉すくなで無表情であったので、しまいにはわたしはこの人々は本当に眠って居るのではないかと思ったほどだ。
そしてわたしはとりどりのズズマモリを手に、一晩中でもとろとろと続いていきそうなそのバザールを後にした・・・
③どこまでも見知らぬ平野が続いている。
わたしは不安な気持ちで先を急いでいた、迷ってしまったのだ。何とかして朝までに宿に戻らねばならない。
不意に暗い草原の向こう、月明りに幾つもの光が反射しているのが見える。街ならばありがたい、人に道を尋ねることができる。
中華風の屋根、羅紗のカーテンの向こう、わたしが知る・わたしを知る人々が安らかに眠る宿はどこですか?
しかし近寄ってみるとそれは月明りの下、白い裸身も露に飛び跳ねている少女たちだった。狂ったように踊り続ける彼女らにいくら呼び掛けても応答はなく、わたしは思い切ってひとりの腕を掴まえた。
怯える様子もなく、少女はわたしの目をまっすぐに見つめ返した。くろぐろと潤んだ瞳はまばたきひとつせず、わたしはこの漆黒に吸い込まれてしまうのではないかと思った。
どことなく小鳥の瞳を思わせる彼女、羽のように身の軽い彼女に、とにかく大きな道に出たいのだが、としどろもどろに尋ねると、少女は笑って暗闇の一方をゆびさした。
④道はますます狭くなる一方で、しまいには車がやっと通れるほどだった。
騙されたかな、と思い始めたとき、出し抜けに、塀に囲まれた大きな屋敷が見えた。塀の終わりは見えず、道の先は塀の向こう、屋敷の中に続いているようだ。
「この先は、この屋敷の私道になっているんじゃないかな」
Rが言った(奇妙なことに、彼女はこれまでの道筋の間ずっとわたしの傍らに居たのだが、わたしはそのことをほとんど自覚していなかったので、この言葉でようやく彼女の存在を思い出した)。
道を尋ねるにしろ通行の許可をもらうにしろ、屋敷を訪問しなければならない。
わたしたちは車を降り、荒野の中のただひとつの建造物、白亜の屋敷の呼び鈴を鳴した。
どうか街までの道を教えて欲しい、と頼み込むと、無機質な声が…声だけが、どこからかわたしたちを屋敷の中へと招き入れた。
「こちらでお待ちください」
ヴィクトリア風の家具が並ぶ豪華な応接間には、先客が居た。
その中年の温和そうな男性は、私たちを見て立上がり優雅に一礼すると、ややぎこちなく尋ねた。
「あなたもパーティーにいらしたのですか」
いや、わたしたちは道に迷ったのだ。そう言うと彼は幾分気を許したかのようにほほ笑んだ。
「失礼、いや、この屋敷の女主人はとても気難しい人でね」
彼女のパーティに参加するのはこの上ない栄誉だが、気紛れな彼女は一晩にごく少数の客しか認めない。
彼は熱心に屋敷に通いつめ、今宵こそはと期待しながら幾夜を過ごしたが未だその光栄に浴してはいないのだという。
おりしも扉の向こうでは饗宴が始まったようだった。またもや不思議な声が響き、続きの間への扉がひとりでに開く。
「主人の言いつけにより、本日のゲストにおいでいただきたく思います」
そう言われたのはわたしとRだけだった。わたしたちは当惑していたが、ともかくも行かなければこれ以上進むことができない。ためらいがちに扉をくぐり ちらりと元の部屋を伺うと、呆然と立ち尽くす哀れな男が見えた。
この鳥かごのような部屋で、わたしたちはこれから、この屋敷の女主人を見つけ出し 挨拶しなければならない……
~つづく
*
うとうと、十分くらいの間に見たゆめ。
ルソーの絵みたいに幻想的だった。
「つづく」ところで、おしまいなの。ようやく全部書けた!ズズマモリのくだりはお気に入りだけど、全編通してこの夢はとても、楽しかった。
それで気付いたらGと約束した映画の待ち合わせ時間を過ぎていて、慌てて電車に飛び乗るけれど反対方面だったりしてなかなか辿り着けない、というところで終わった。
ひどく現実の匂いのする夢だったけど、今思うと奇妙なことに一切の音が無かった。無声映画みたい、色彩ばかりが鮮烈で。
ここんとこ眠っても仕事の夢ばかり見ていて、朝起きてもなんだか眠った気がしないというかむしろこっちが夢だっけ?と呆然とすることが多い。
自分が夢みているのか、自分を夢みる誰かが居るのか、世界が無限に思えるのはこういうときだ。
*
生まれて初めて「お客さん、終点だよ」と電車でゆり起こされた。しかしそれよりも、起きたら「あれ?女の子か」と言われたことの方がショックだ。そんなに豪快な寝方してたかなあたし!
しかしそういえばぼろきれのようなずだ袋に運動靴、男もののグレイのコートがあたしの通常スタイルなので間違われても致し方ないのか。
このスタイルは母に批判され続けているのだがしかし・かわいい靴やらバッグやらは性に合わない、あたしの武器はこの身ひとつ・とかうそぶいてみる。
←センスの無い田舎者の言い訳