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ゆめ か うつつ か
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柔らかい雨が降っている。

雨の匂いの中、わたしは見知らぬ土地を歩いていた。
すぐそこに山が見え、閑静な郊外の散歩道といった風情。

誰も居ない。

舗装された道路の側溝からちろちろと水が染みだしていた。近づいて見てみると、溝には清い水と一緒に小銭が溢れている。
わたしは、こんなところに小銭があるのは、近くに神社があるからに違いないと考えた。そのとたん、草深いお社が出現する。むっとするほどの草いきれのなか、わたしは片手に小銭を掬い上げた。数えなくても手のひらに800円ほどあるとわかっていた。

その金を懐に、わたしはゆっくり坂を上った。賽銭泥棒をしたつもりはなく、自分のものを取り戻したように気分が良い。

と、不意にそこだけ黄昏色の、ほのあかるい存在感の店が目に入る。ガラス戸を押し開け中へ入ると、オレンジ色の内壁に天井から吊りさがったカラフルなモビールが揺れた。
レジ台には、本物の薔薇を加工した耳飾りのような、繊細な小間物が少しだけ並んでいる。そのほかに、商品のようなものは何も無かった。
長い黒髪の、年齢不詳の女主人が無表情にモビールを飾り付けしているのを眺めながら、わたしはまったく突然に「ついこの前、この店に来たばかりだ」ということを思い出した。


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毒気が満ちる時季に見たゆめ。





わたしはヨミスメとよばれる水を求め、源泉にたどりついた。

透き通るような池に、百合とあじさいがなかば水没するように咲いている。水面に映る花のかげが滲むやわらかな色彩の中で、私は湧き出す水を汲み上げ喉を潤した。

雨が静かに降り出してきていた。

池の奥にある社務所は無人だったが、数匹の犬が寝そべっており、暖かなストーブがたかれていた。犬はどれもおとなしく、わたしには大して関心を示さなかったが、ただ一匹の黒犬が私をみてくんくんと甘えた鳴き声を出した。よく見ると黒犬は極端に狭い円形の檻に釘付けにされているのだった、と言うのは、その腹に鉄格子が刺さっているのだ。わたしはなすすべなく犬の頭をなでるしかなかった。

やがて小雨になったので、わたしは池を過ぎ、ながいながい坂をあがる。わたしの横を滑るように滑らかに自転車が通り抜けて行った。

坂の上は行き止まりの分かれみちになっていて、ステテコ姿のおじさんが街へゆく正しい道を教えてくれた。そうしてわたしはどこか既視感を覚えるその道をずんずん歩いて行った。

その街はひなびた温泉宿といった風情で、ずらりと並んだ屋台のような湯屋の土間には人が集って賭け事や寸劇に興じていた。
わたしはこの街には一度も来たことがないはずのに、そうした情景がなぜかひどく懐かしく思うのだった。

わたしは不意に、mに電話しなければいけないと思う。「黄泉純水」を飲んだよ、と伝えるために。


夢を見ることも増えた。





真夜中の公園に、屋台があかあかと立ち並んでいた。全てたい焼きの屋台だ。わたしはとりたてて不思議に思うことなくジャンボタイヤキ880円を食べようと思うが、なかなか焼き上がらない。無口な親父と差し向かいに待ち続けていると、その内東の空が明るくなってくる。 屋台は薄く透き通り、遂には親父ごと日の光に溶けて消えてしまった。





文化祭演劇の配役を決めるためにくじ引きをする。だがそこには実行委員会の罠が隠されており、くじを引くと床がぱかりと割れて地下迷路をさ迷うことになるのだ。男Aや女Dなど虐げられた配役に不服を唱える者はここに落とされるというわけだ。だがやがて彼らは地下を脱出し、遂には会議室に乗り込み文化祭を壊滅させる。リベルテ!と叫びながら。





夢を記録すると精神がやられるという話を聞いて、さもあらん、とうなずいた。



①わたしは三十年来行方不明である、伯母の住まいを訪れた。

夏の暮れかた、湯上がりに裸足のままでベランダに消えた伯母は、そのときかぞえで二十二だったという。
「暑い日だったよ」
と、母は懐かしそうに語るのだった、振りかかった突然の不幸に戸惑い嘆く時期はとうに過ぎただ運命に従う人間の穏やかさだった。わたしはそんな母に不満を覚えた。伯母の物語を過去のことだと思いたくなかった、もしかして今再びひょっこり現れるかもしれないではないか。何にせよいわくのある家を訪れることに、冒険めいた感情を抱いていたのだ。

今は住む人もまばらな寂れたアパートの、伯母の部屋は四階だった。黴臭いソファに横たわり寝返りをうつと、たちまち眠気がやってくる。わたしはそのままうとうとと眠りこんだ。

夜半過ぎだったろうか、背後でかたりと音がしたかと思うと、瞬く間に気配が増えた。すわもののけか、と思うわたしの耳に、ブツブツニャアニャア、ラジオのノイズのように聞き取れない喧騒が聴こえてくる。楽しげに歌いさわぐ、そのささやかな宴を背中に聴きながら、わたしはいつしか深い眠りに落ちた。
夜が明けると、ベランダにはたくさんの足跡が入り乱れていた。

そしてわたしはわたしが神隠しに遇わなかったことを、少しだけ残念に思うのだった。


②わたしは夕暮れの海辺に佇んでいる。ところせましと屋台が並ぶチャイナタウンを抜けたところに、思いがけなく海が開けていたのだ。やわらかな砂の上に様々な貝が落ちている。戯れに幾つか手のひらに乗せてみた、穴の空いたもの、渦を巻いたもの、いつしか夢中になって拾い集めた。
そのうちに、紫色の薄い殻からころんとましろい粒が転げ落ちた。それは針の頭ほどしかなかったが、紛れもなく真珠だった。
小さな幸福感とともにわたしは顔を上げた。なまぬるい潮が満ちてわたしの膝を濡らす。

じきに夜だった。





昨日は通り魔が無差別射撃しているのを横目で眺めつつ、会社に急ぐ夢を見た。いくら走っても会社にはたどり着けず、通りすがりに梅林でよい香りの梅の花をもらったり、ソーダアイスを食べたりした。


流氷をくりぬいたレストランで痩せて背が高く陽気な同性愛者と弟をはさんで食事をした。

わたしは寒かった。何を食べたかもう覚えていないが、氷のそこから天を透かすと、きらきらと太陽が反射して実にうつくしかった。

氷上に出ると、遠く 氷に覆われた白い大地が、ゆるやかに流れていくのが見えた。



ドイツからフランスへ、空を飛んでいった。真下に田園風景が見える、ローマ時代の遺跡はどこ?地図を見るけど全然わからない。どうやらイタリアへ来てしまったようだ、国境には湖があり そこを越えるとロシアだった。どうやら日本人街のようで、着物を着た日本娘が街を歩いていた。中国人も居た、派手な看板が並ぶ中であたしは浮遊するように歩いた、四畳半の部屋、洋服に埋もれて脱出できない。裸足にならねば、そしてこの服の山を越えたら現実に戻れる。

大事なアイスクリームを勝手に食べられてしまう。わたしは泣きながら怒るが、アイスクリームは戻ってこない。



 

そんな夢ばかりみている、これも五月病か。


 

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