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ゆめ か うつつ か
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雑誌の付録に、水だけで出来るインスタントお節がついてきた。

世の中便利になったものだと感心する一方、どうせ即席、味のほうはお粗末だろうと醒めた感興を催す。

とはいえ珍しいものには違いない、早速作ってみることにする。重箱はプラモデル風に組み立て式、餅は米粉に水を加えるだけで、かまぼこやくりきんとんも粉末状。まるで駄菓子をこしらえているような面妖な気分。

そうして最後に取り上げた、「黒豆」と書かれた袋には、たった一粒、干からびた豆が入っていた。これにも水をかけるだけ? と半信半疑でただの一滴、水を振りかけると、あれよあれよと豆殻にひびが入り、すっくと立ち上がる芽、やがてふさふさと生いでる葉や蔓と目まぐるしく生長を続け、しまいに小さな豆が鈴生りに、枯れゆく花の蜜をしとど浴びてつやつやと仕上がってゆく。

気付けば重箱いっぱいに湯気のたつ出来立ての黒豆が詰まっていた。わたしは浦島太郎さながら、煙めいた湯気に包まれ呆然とする……。

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山小屋で眠っている。
うとうとしているのだが、何となく落ち着かない。雨戸が半分くらい開いているようで、薄明かるいのだ。

開きかけの扉や雨戸って何かが覗いていそうでいやだなあ、と、寝返りをうっていると、ただならぬ寒気に襲われる。そのうち室内に得体の知れぬ気配がしてきて、ぞっとしてわたしは塩を取りに立ち上がった。やたらに眠かったが、恐怖が眠気を上回った。寒気は増すばかりで、全身が逆毛立つようだ。これはいけない、となるべく辺りを見ないようにお勝手へ行き、ちりかみに塩を盛ると部屋の四隅に置く。

『やめてよ そんなこと』

あどけない子供の声がした、それがわたしの緊張のピークだった。全身の力が弛んでゆくのを感じながら、わたしは言った。

「なら、怖がらせないで」

声は小さく笑った。

それからたまにおかしなことが起こるようになった。テレビやラジオが勝手についたり、本を置いておくとひとりでに挿し絵の部分が開いていたり、ぬいぐるみの位置が移動していたり。それはひどくかわいらしいイタズラだったので、全く恐怖は感じなかった。それどころかわたしはそれら他愛ない異変を待ち遠しいくらいに思うようになったのだ。

東京に帰る日に、わたしはツツジの小さな花枝を折りとると、机の上に置いた。扉がさよならを言うようにぱたぱたと開いては閉まった。


冬になったころ再び小屋を訪れると、机にそのまま根を生やし、炎のように咲きほこるツツジの木があった。


おかしなことはもう二度と起こらなかった。


そこは荒野に囲まれた砂っぽい街で、中心にある教会ではちょうど朝の礼拝が行われていた。死人のように青白い貌をした男が通りすがりのわたしを手招きする、

――共に来て泣け。祈りを棄ててなお神を忘るることなかれ――

その言葉に惹かれ、信徒でもないのに、わたしは男について教会の中へ向かう。

教会に一歩足を踏み入れた途端、立ち込める腐臭にわたしは慄然と悟った。いけない、ここは化け物の巣だ。しかしわたしが悟ったことを奴らも悟り、わたしはたちまち死者の群れに囲まれてしまう。
洗礼盤をひととびに越え、聖像によじ登り、ステンドグラスの窓をぱりんと破る。色とりどりのガラスの破片をまといわたしは地面に落ち、地面は柔らかくのめるようにわたしを包んだ。

橋を渡り屋根を伝いわたしは死者から逃げる、生命に満ちた安全な子供部屋へ。


配膳係はうんざりと、シチューをお皿に盛り付ける。
 
「とっとと行きな、先は長いぜ」

なるほど、ふと前を見やると、給食に並ぶ列は長々と、果てが霞んで見えるほど。

「だけどどうして、こんなにあったら、器に入りきらないでしょう」。

歩みを止めずに一歩進むと、わたしはポテトサラダの配膳係に尋ねた。

「そうかね、だけどお前の皿はまだ空いてるぜ」 

なみなみつがれたシチューがゆげを立て、ポテトサラダが大きなスプーンで山形にすくいあげられると、次はわかめごはんだった。その次は筑前煮、その次はメロン、その次は揚げパン……メニューはごちゃごちゃだが、しかし、皿は常にどこかしら空いており、わたしは一歩ずつ、ごちそうを捧げもち、進むことしかできない……
 

砂のように変幻自在な街で、図書館を見つけた。それはまるで蜂の巣のような六角形をしていて、蜜を運ぶ蜂のように、ひとびとが入っては出て、出ては入ってゆく。せわしげに列を成す人に交じったのは、好奇心からでもあったし、街から抜け出す正しい道を見つけられずいいかげん苛々していたからでもある。しかし入ってみると、中はだだっぴろい空間に過ぎず、その中央に異国の黒い少年が単座しているのであった。見渡しても、本らしきものは一冊も無い。少年がくちを開いた。「何の本をお探しですか?」「いったいどこに本があるんだ?」尋ねると、少年は笑って自分の頭をゆびさした。「すべてここに」。「じゃあ、頼むよ」風変わりな司書に、わたしは言った。「この街の地図が見たいんだ」。「そんなものがあったら」少年は笑った、「とっくにぼくが逃げ出していますよ」。

暑い日だった。図書館を出ると、街はまた姿を変え、モザイクのような迷路を成していた。もと来た道すら定かではなく、わたしは立ちすくむ。とにかくも進まなければならない、と、小道に逸れると、巨大な氷削機械が看板代わりのカキ氷屋兼小料理屋があった。美味しいスープとマントウを頼むとわたしは壁際に座り、いつもやるようにナイフで土の壁を引っかこうとして、既にわたしが以前つけた印を見つける。そういえばこんな店に来たことがあった。わたしはうんざりとナイフを投げ捨てる。

 

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